1838年にシュライデンが植物について、1839年にシュワンが動物について細胞から成り立っているという細胞説を唱えた。髪の毛の表面や断面を顕微鏡で見ても細胞はよく分からない。髪の毛の根元は細胞が盛んにつくられている場所で、細胞が多く見られる。そこでつくられた細胞は先へと押しやられて、細くなる。そして頑丈なタンパク質であるケラチンがつくられて堅くなる。表面の平たくなった細胞はキューティクルと呼ばれ、メラニンが貯まる。そのメラニンが多いと黒髪になり、少ないと金髪、ほとんどなくなってしまうと白髪になる。やはり髪の毛も多くの細胞からできている。その毛が変化してトゲになった動物がいる。
ヤマアラシのトゲやハリネズミのトゲは鋭く、身の防御に役立っている。ヤマアラシは捕食者に出会うと背中のトゲを逆立てて、後ろ向きに突進するという。ボルネオでは何回もヤマアラシに出会ったが、いつもヤマアラシは走って逃げ去った。もっと危険な状況に陥り、逃げることが難しい時の反撃にトゲを使うのであろう。トゲは先端が反り返り、刺さると抜けないと本には書かれてあるが、何本か拾ったトゲは先端は反り返っていない。ボルネオには長いもので30cmにもなるトゲを持つマレーヤマアラシと固有種のボルネオヤマアラシが分布している。地上を徘徊し、齧歯(げっし)類だけあって非常に堅い木の実も食する。樹上性のカナダヤマアラシは尖ったキューティクルがささくれ立っており、刺さると抜けない返し構造になっているという。ボルネオのヤマアラシのキューティクルには、そのような構造はない。ヤマアラシの種類によってもトゲ構造の違いが見られる。
ハリネズミは危険が迫ると丸くなり、トゲを内向きに重ね合わせて難を逃れるという。ネズミという名前がついているが、ネズミよりモグラに近い。
電子顕微鏡で見るとヤマアラシもハリネズミもキューティクルがあり、毛が特殊化したものと分かる。毛が硬化してトゲになったもので、非常に鋭く堅い。ハリネズミは古い標本のトゲを使用したため、トゲの劣化が進んでおり、部分的にキューティクルの構造がなくなったり、ひびが入ったりしていた。いずれのトゲも中は空隙が多く軽い。