話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.76
南の島の珍奇なカメムシ(その2)
執筆者:高井幹夫
2010年02月10日

 前回は変わった顔を持つカメムシの話だったが、今回は一風変わった頭を持つカメムシを紹介しよう。ある日、石垣島(高橋敬一さん)から送られてきたカメムシ宅急便をいつものようにワクワクしながら開封し、サンプル管の中の小さなカメムシをルーペで見てまたまた驚かされた。今度は見たこともない頭をしたカメムシだったからだ。頭全体が複眼で覆われており、まるでアブの頭のようだ。もちろん頭の大半が目なので、頭だけでなく顔も奇っ怪にならざるを得ない。私としては初めて見るカメムシなので、当然名前も分からない。撮影後、すぐさま分類の専門家に送ったところ、最初に送られてきたダルマカメムシは既知種のコガシラダルマカメムシ(写真1)だったが、その次に送られてきたのは新種で、その後 Myiomma takahashii という学名で新種記載され、ムナグロコガシラダルマカメムシ(写真2)という和名がつけられた。この2種の他にコガシラダルマカメムシ属に属する種としてキイロコガシラダルマカメムシとコウボウコガシラダルマカメムシの2種が知られているが、いずれも採集されたのが1個体ときわめて珍しいカメムシだ。
 ダルマカメムシ類は主に熱帯~亜熱帯地域に棲息しており、これらのカメムシはいずれも樹幹を生活の場にしている。前回(No.60)紹介したメダカダルマカメムシが棲息する「ご神木」では、メダカダルマカメムシだけでなく他のダルマカメムシもよく見つかった。その中に、何と新属新種のダルマカメムシまでいたのだ。発見者の河野勝行さんに因んで Khonometopus fraxini という学名がつけられている。属は異なるが、このカメムシもやはり一風変わった頭部をしている(写真3)。
 ダルマカメムシの中でも、Isometopus属の成虫はさほど奇異な頭をしている訳ではないが、幼虫の体形がとても変わっている。体全体が平たく、目はヒラメやカレイのように体の上にある(写真4)。初めてこの幼虫を見つけたときは、ヨコバイかカイガラムシの幼虫かと思ったほどである。
 我が国では、ダルマカメムシ類の多くは南西諸島に分布しているが、九州以北にもヒメダルマカメムシ、ダルマカメムシ、コウボウコガシラダルマカメムシがいる。しかもこれらのカメムシは公園や大学のキャンパスなど比較的身近な場所で見つかる。決してうっそうとした森に分け入る必要はない。樹種としてはケヤキやサクラなどが狙い目だろう。体長は2~3mmと小さいので、探すのは結構大変だが、これらのカメムシは、指でピアノの鍵盤を叩くように樹幹の表面をなぞったり息を吹きかけると、すぐに飛んだりせず、幹の表面をス、スーッと動くので見つけやすい。興味のある方は、公園へ散歩に出かけた際に探してみてはいかがでしょうか。新種のコガシラダルマカメムシを見つけることができるかもしれない。なお、ここで掲載したコガシラダルマカメムシとムナグロコガシラダルマカメムシはいずれも雌だが、両種の雄は体の色彩が別種かと思われるほど異なる。これはコガシラダルマカメムシの仲間に共通した特徴である。

写真1.コガシラダルマカメムシ
写真2.ムナグロコガシラダルマカメムシ
写真3.K. fraxini
写真4.マダラダルマカメムシ