話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.78
ミサゴの七不思議
執筆者:唐沢孝一
2010年02月24日

 ミサゴはタカ科ミサゴ属の鳥で、大きさはトビくらい。世界中の海辺や湖沼、河川などに生息し、特技は魚の捕食。魚鷹(ウオタカ)、磯鷹(イソタカ)の異名もある。上空から水中の魚めがけて足から飛び込んでいくシーンは見応えがある。
 2009年11月29日に葛西臨海公園で行った観察会(自然観察大学の特別企画「海辺の鳥」)の折りにも、ミサゴを観察。捕らえた魚を重そうに東京ディズニーランドの方へと運んでいくシーンは印象的であった。魅力的なミサゴの観察だが、「なぜだろう?」と思うことがたくさんある。ミサゴ観察の参考までに、「ミサゴの七不思議」を列挙してみよう。
〈ただし、( )内は筆者の勝手な解釈にすぎない。 〉

■不思議1:【魚だけでなく、カモ類も襲うの?】

 ミサゴが飛来すると、数万羽のスズガモの群れが飛び立った。ミサゴは魚食性でありカモ類を襲うことはないはずだが…?
(カモ類を襲うシーンをみてみたい。それとも、カモ類は猛禽類の体形を見ただけで取りあえず逃避し、危険なオオタカなのか安全なミサゴなのかは後で考えればよいのかな?)

■不思議2:【獲物が大き過ぎて溺死しないの?】(写真1)

 11月29日に観察したミサゴは、何回かダイビングしてついに魚を足爪に引っかけて捕えた。しかも獲物は大きな魚。岸辺を目指して必死に羽ばたくのだが、いかにも重そう。ようやくディズニーランドのホテル前に到達した。そこで、疑問。もし魚が大き過ぎ、足爪がはずれなかったら、溺死するのではないか?
(溺死した事例を観察してみたい。魚を放して水中から浮上できるのだろうか?)

■不思議3:【水面下の魚が見えるの?】(写真2)

 このミサゴ、房総半島の鴨川~館山にかけての海岸や河口でしばしば観察している。上空から水面下の魚をどのように発見するのだろうか。高度15~20mの上空から見下ろすと、水面付近が反射して水中の魚は見つけにくいはずだが?

■不思議4:【水中に突入する時の角度は?】(写真3)

 子どものころに、お風呂の中で自分の手の指が短く見えたのが不思議であった。光が水中で屈折するからだ。ならば、ミサゴが水中にダイビングするとき、光の屈折をどのように調節しているのだろうか?
(遺伝的に調節能力をもっているの? 後天的に学習するの?)

■不思議5:【房総での繁殖場所が見つからない?】

 写真集では、海岸の岩場で何年にもわたって繁殖している巣をみかける。しかし、筆者がフィールドにしている房総半島では営巣地が見つからない。なぜ?
(巣を見つけられないだけなのか、房総では繁殖していないのか?)

■不思議6:【絶食に何日耐えられるの?】

 台風などで海が何日もしけるとき、ミサゴはどこで何をしているの? 食物の魚が確保できないとき、何日くらい絶食に耐えられるの?
(餓死する事例があるの? それとも、気象を予知し台風を避けて移動するの?)

■不思議7 :【ミサゴの名の由来はなに?】

 標準和名は「ミサゴ」。奈良時代の万葉集では「三佐呉」「水汰児」「三汰児」「美沙」で登場。和名は「美佐古」。ミサゴと入力して漢字転換すると「鶚」「雎鳩」もある。しかし、漢字は当て字なので文字を解釈するのは不適当。「ミサゴ(misago)」の元々の意味は何だろうか? 貝原益軒は「水探るなり」(『日本釈名』)、新井白石は「水沙(みさ)の際にあるをもって名づく」(『東雅』)としている。拙著『校庭の野鳥』では「水中の魚を探すので水深(みさご)」(p.64)とした。 しかし、いずれも後世の解釈にすぎない。古代の人が、あるいはそれ以前の原日本人にとって「ミサゴ」は何を意味していたのだろうか? (う~ん、古代人に直接聞いてみたい)

写真1. 鋭い爪をもったミサゴ
写真2. 空中から水面下の魚を探す。
写真3.両足をそろえて海面に突っ込むミサゴ
(写真はいずれも千葉県鴨川市の海岸で撮影)