話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.79
電子顕微鏡シリーズ22 よく切れるカッタ-・キンイロクワガタ
執筆者:浅間 茂
2010年03月03日

 もう20年近く前になるが、ニューギニア島のインドネシア領であるイリアンジャヤを千葉県の高校教員等13名で訪れた。1991年8月7日から19日までの旅であった。800mmの望遠レンズに単一電池が8本入ったメディカルニッコールを担いで、小さな飛行機にようやく乗り込み、降り立ったのが、ワメナである。ワメナはバリエム渓谷の中心に位置し、標高が1600mで周囲が3000m級の山に囲まれている。そこでは、鳥やクモの写真撮影をしていたが、甲虫に詳しいI氏が、腰蓑だけをつけた地元の老婆と握手し、大喜びしているではないか。老婆が甲虫を見つけてきてくれたのである。手元を見ると、金色に光るクワガタがある。近くの藪に入り、葉がガジュマルに似た灌木に止まっていたのを、ようやく2匹採集した。それがパプアキンイロクワガタである。
 パプアキンイロクワガタは名前のように金色をしたものから、青、赤、緑、紫と体色には変異が多い。雄は大あごが発達している。この大あごは、雄同士の争いの際に広げて威嚇したり、相手をはねとばす時に使われる。闘争用には役に立つが、大あごがじゃまになり、かみつくことができず、クワガタは樹液を吸うものが多い。クワガタの大あごの大きさは、幼虫時代の食べた餌の量に関係していることが分かっている。

 パプアキンイロクワガタがおもしろいのは、前脚にカッターを持っていることである。前脚の脛節にある扇状の突起物がカッターの役割を果たしている。このクワガタはキク科の茎をカッターで傷をつけて、その汁を吸う。雌ではこのカッターがない。汁を吸う時は、雄の傷つけた場所を探して利用する。脚の先端にある爪は鋭く尖っており、この爪で引っかけてキクの茎に止まるのだろう。この爪の間には、感覚器らしいものが伸びている。モルジブではこのクワガタが侵入し、カッターを使い作物を傷つけ、農業上の害虫になっているという。
 金属光沢をした前翅の下には、折りたたまれた空を飛ぶための後翅がある。その下の腹部の外脇には気門が体節ごとに8対ならんでいる。さらに胸部には2対ある。この気門は水分が蒸発したり異物が侵入しないよう、樹状形の突起がびっしりと並んでいる。写真4では、そこに一個の丸い花粉が引っかっている。

パプアキンイロクワガタ雄
前脚にあるカッター
鋭い爪
気門の中の樹状突起