話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.17
冬の昆虫観察-際物を追う-
執筆者:山崎秀雄
2009年05月06日

 日本の夏は多少の地域差はあるが、日本全国どこでも夏で暑い。しかし、冬季は違い地域により大きな差がある。ここで述べるのは、私が住んでいる南関東のことである。
 厳冬期でも、ハナアブ類、ユスリカ類には活動する仲間がある。気温が上がると、ハナアブ類がサザンカなどの花を訪れるし、ユスリカ類の蚊柱が立つ。12月までは、クロナガアリが種子くわえて巣に運ぶ姿を見ることができる。本種は次の晩秋まで貯蔵した種子を主な餌とし、地中深い場所で過す。
また、気温が高いとマグソコガネも糞を求めて移動する。以前、12月下旬に鹿児島へ行ったことがあり、モンシロチョウが飛ぶのを見て、生物を通してみた季節には地域差があることを感じた。

 多くの昆虫が活動しない時期に活動する昆虫もいる。積雪地帯では、冬に雪の上に、カワゲラの類などが現れる(写真)。これらは、飛ばないので翅はない。
 地域の昆虫類の分布調査や分類標本の補強に越冬の昆虫採集がある。それは、越冬場所を見つけ出す方法で、越冬していそうな崖の切通しの上縁や朽木を壊す。落ち葉の下を探す採集法である。誰かが、「例え、木の根、草の根をかき分けても親の仇は探し出さずにおくものか」との口上から、「親の仇採集法」といった。対象は成虫越冬をする種類である。幼虫では種類が分かりにくいし、持ち帰っての飼育が必要になる。

 多くの種類を発見できないが、夏季の調査ではお目にかかれない種類に逢うことがある。また、冬季の運動不足とストレス解消にもなる。冬季の観察や調査は積雪が無く、厳寒でない地域が中心になる。最低気温がマイナスの日が続くと、朽木や地面が凍りナタやスコップでは刃が立たない。関東南部では12月までと、3月上旬からがシーズンであるが、春はスギ花粉をもろに受ける。
 多くの昆虫の越冬形態は昆虫の変態のどれかのステージで過す。それは永い進化の歴史の中で得たものである。成虫、蛹、幼虫(若虫)、卵のいずれかであり、幼虫越冬は何齢かが問題となる。越冬場所は温度変化が少なく、乾燥のしない場所を選ぶ。しかし、それも様々でイラガは木の梢で硬いまゆの中で蛹になって過す、オオカマキリ、オビカレハ、チャドクガなどの卵は風にさらされる位置にある。
 樹木で樹皮に隙間ができ小形の昆虫に越冬場所を提供するのが、ケヤキ、ムク、プラタナスであろう。ケヤキとムクは同じような種類の昆虫が越冬しているが、周りの環境によりそれぞれ異なる種類がいる。チビタマムシ類、ミヤマカメムシ、昆虫以外ではクモがいる。プラタナス樹皮下にはプラタナスグンバイがいる。
 先日、運動不足解消と気分転換に越冬昆虫の写真撮影に出かけた。場所は私が住んでいる市川市の柏井町の森である。キャベツ畑の日陰で久しぶりに霜柱を見た。森の中をひと回りして、市営キャンプ場の雑木林へ行くと、鳥や昆虫の写真撮影をしている方がおり、挨拶をする。会話のなかで、この森にはホソミオツネントンボが越冬しているというので、撮影のできそうな低いところにいる場所を教えていただき、撮影した。イトトンボやイナゴぐらいの大きさだと特別なレンズを使わなくても、カメラを買ったときについていたズームレンズで良く写る。
ここで、撮影を終了して、車の止めてあるところに向かう途中、地図(インターネット打ち出し)を持って歩いてくる青年に会う。彼が話かけてきた、「柏井の森はこちらでいいですか」、「この辺りの森ですが」、「ホソミオツネントンボの越冬している場所はどの辺ですか」、「すぐ先です、いま、写真を撮ってきました」、「すみません、見せてください」。カメラの映像を見て勇んで立ち去った。私は、なぜ彼がこの場所にホソミオツネントンボの越冬場所があるのを知ったのか、歩きながら考えた。当社主催の自然観察大学副学長の唐沢先生が、昨年12月に「千葉生物誌58(2)」(千葉県生物学会刊行)に当所での観察記録が発表されていたからなのか、または、口コミ(ネットコミ)によるものか。いずれにしても、車がないと不便な場所に“ようこそ”といった感じ。市川市で、ホソミオツネントンボの越冬しているのが見ることができる場所は、ここの他に、大町自然観察園の北側である。大町自然観察園は、自然観察大学で1度観察会のフィールドにしたのだが、集団で観察して歩くのには、湿地に渡された歩道が狭くすれ違うのがやっとなので、一般の人に迷惑をかけるので、以降、やめたいきさつがある。駐車場(有料)もあり、野外観察にはよい場所である。

雪の上を歩くカワゲラの1種。 (南会津地方、3月上旬撮影)
枯れたスギの木の皮の下から出た、エサキモンキツノカメムシ。 昨年の自然観察大学の見沼の観察会で、本種が子を保護しているのが観察できた。体長10~15mm。
ホソミオツネントンボ雌。 成虫で越冬するトンボは日本では3種である。多くはヤゴ(幼虫)で越冬する。産卵管が見えるので雌である。晩春には緑色となり浅い水域の植物に産卵する。