秋になるといろいろな虫たちの鳴き声が聞こえる。しかし、その日本古来の虫たちの鳴き声をかき消すかのように、最近はアオマツムシの鳴き声が街路樹から聞こえるようになった。日本では古来から鳴く虫の音色を楽しむ文化があった。それは約1000年前の平安時代の中期からといわれている。この鳴く虫の音色を楽しむことは、ヨーロッパやアメリカではなされていない。欧米では、虫の鳴き声は右脳で処理されるため、雑音に聞こえるといわれる。アジアの文化、特に中国と日本の文化といえる。私たちは左脳で音楽や会話と同様に処理されるため、その音色の美しさに魅惑されるという。鳴く虫の音色は季節と共に変化する。温度が低くなると、羽をこすり合わせるスピードがゆっくりになり、低音に変わる。鳴く虫は振動数が高いが、カンタンはその中で最も低い声で、か細くルルルル・・と鳴く。年をとると高音から聞こえなくなるといわれることから、年配者にとってもカンタンは秋の深まりと共にじっくりと味わえる音である。
鳴く虫の発音器は、コオロギ類は右羽が上でその裏にやすりがあり、下の左羽の上に摩擦片がある。エンマコオロギはやすり片の歯の数は約230ある。やすりと摩擦片をこすり合わせて音を出し、薄い膜でてきた発音鏡に共鳴させて鳴き声を響かせている。キリギリス類は左羽が上で右羽が下で、左羽の裏にやすりがある。これらの音を聞くことができる聴覚器を、コオロギ類やキリギリス類は第一脚のけい節に持っている。それはキチン質で囲まれた凹みになっており、その鼓膜で空気の振動を感じとっている。人間の耳に聞こえない音も鳴き交わしている。ツユムシの仲間では雌が鳴くのが知られているが、ほとんどの鳴く虫は雄だけであり、求愛や縄張り宣言など他の個体とコミュニケーションとして使われていてる。鳴かない雌には発音器はない。