話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.9
アワダチソウグンバイ-レースをまとった貴婦人?-
執筆者:山崎秀雄
2009年03月11日

 アワダチソウグンバイは新侵入昆虫であり、その分布の拡大が問題となる。幸い普通種であり、形が特徴的で誰が見ても間違う種ではないので、各地から情報を集めて拡散状態を調べるのには、打ってつけである。
 本種は主にセイタカアワダチソウの葉に寄生して、日本全国に広まっていった。ところが、寄生を受ける植物が直接、我々に関係がないので、話題にならない。しかし、栽培植物に被害を与えると、当該県の「病害虫防除所」に持ち込まれ、「病害虫防除特殊報」のように、通常の報告書とは別の掲載であり、話題となる。有名になりたければ、悪いことをすればよい、という風潮にも似ている。昆虫にとって生息圏の拡大には、最大の天敵であり化学兵器(?)を使用する人間とは係りを持たないほうがよい。本種はそれである。しかし、害虫といわれる仲間は人間に眼の敵にされながらも、世代を繰り返し反撃(?)している種が多い。
 セイタカアワダチソウの葉にダメージを与えるのであるから、その種子の生産を阻害して、本種の分布拡大を防ぐであろうとは、とても考えられない。下の葉から被害を受けるので、古い葉となる。また、この被害で枯死したものはない。家庭での害はヒマワリ、キク、ユリオプスデージーなどキク科の庭の花卉類であろう。我が家のユリオプスデージーの場合、アブラムシを退治したので安心していたら、本種にやられ、花期が1回減ってしまった。駆除に家庭用のエアゾル式の殺虫剤を使用したら、噴射口より遠くのものは素早く飛び立った。
 本種は1999年、兵庫県西宮市で発見された。原産地は北アメリカだが、そこから直接来たのか、他の侵入地から来たかは不明である。成虫の体長は3mm内外、形は後から侵入(2001年名古屋)し先に分布を拡大したプラタナスグンバイに似る。区別点は本種の前ハネは後方の丸い透け模様が大きいのと黒い紋とやや色が濃いことで区別できる(写真1・2)。
 2008年5月の埼玉県さいたま市の見沼の自然観察大学の野外観察会で本種を発見、興味を持った。私の住んでいる千葉県市川市ですぐに分布を調べた。数か所で生息を確認した。また、インターネツトで調べると2007年に市内の記録があることが分かった。分布拡大の状況に遭遇するのは、千載一遇のチャンスとばかり市川市、および千葉県内の生息状況を調べた。2008年10月までには、全市町村に分布していることを確認した。これらの調査結果は「千葉生物誌」(千葉県生物学会)に発表予定である。
 全国ではどうかと、インターネットで調べた。ありがたいことに、全国の都道府県に「病害虫防除所」または、これと同等の機関があり、ここでは、通常病害虫の発生を警告する「病害虫発生予察報」を年に数回だしている。新しい病害虫が発生した場合は「病害虫発生予察特殊報」に掲載する場合が多い。掲載が無い県の病害虫防除所またはそれに準じる機関に電話をして生息の有無を確認した。皆さん親切に対応していただいた。その結果の拡散状態は、表1のようである。これを見ると「初めちょろちょろ中ぱっぱ、最後はぼうぼう」、ちょっとご飯の炊き方の火加減とは違い後ほど速度が増している。分布の拡大速度は1説には、発見されて、隣の県で発見されるまでには4.3±2.3年、島の場合は9.5±9.7年といわれる。また、外来昆虫の渡来は、発見時からさかのぼって最低5年前といわれる。

 陸続きでない四国と九州への移動は遅いが、単独の島への分散より速く、物資の輸送に伴う移動がうかがえる。
 これをお読みになった皆さんにお願いです。屋外に出た折には、セイタカアワダチソウ、ヒマワリ、ユリオプスデージーなどの葉裏を見ませんか。10倍のルーペがあれば十分です。キク科以外にナス(ナス科)、サツマイモ(ヒルガオ科)、オオオナモミ(キク科)などにつき食性は広いので、新寄生植物を見つけてはいかがか。

 レースを纏った奇妙な昆虫アワダチソウグンバイは、羽化した直後は白色だが、しばらくすると写真左のようになる。また、前翅後方に1列に並ぶ円い3個の大きな透明部分があることで、他種と区別ができる。寄生植物はセイタカアワダチソウを好み、他にキク科につく。
 プラタナスにつくプラタナスグンバイとは寄生植物が違い、形態的には乳白色で前翅後方の1列に並ぶ3個の円窓がないのでアワダチソウグンバイとは区別できる。

記録地図
アワダチソウグンバイ
プラタナスグンバイ