話のたねのテーブル

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No.64
電子顕微鏡シリーズ17 遺伝学に寄与ーキイロショウジョウバエ
執筆者:浅間 茂
2009年11月18日

 発酵しかけた果物に集まってくる小さなハエ、それがショウジョウバエである。ショウジョウバエは日本では270種類近くが記録されている。
  生物実験材料として使われるショウジョウバエは、キイロショウジョウバエやクロショウジョウバエである。高校で生物の遺伝実験材料としてキイロショウジョウバエを飼育して、30年以上になる。野生型(+)といろいろな突然変異体の遺伝形質のもの、眼に変異:白眼(white)、鮮紅眼色(vermilion)、細眼(Bar)、褐色眼(brown)、セピア眼(sepia)、 体色に変異:黄体色(yellow)、黒体色(black)、黒たん体色(ebony) 翅に変異:短翅(miniature)、そり翅(curved)、わん曲翅(Curly)、痕跡翅(vestigial)を飼育してきた。一年生の三学期に、4人を一班として突然変異体の掛け合わせ(両親P)を決めさせて飼育する。子供(F1)が生まれたら、形質と性比を数えた後、一人ずつの飼育瓶に分ける。その子供(F2)が生まれたら、形質と性比を数えデータ表に書き込む。全てのデータ結果を元に考察し、レポートにまとめる。大変な作業であるがこれで理論と実践が結びつくし、はじめは叫び声をあげたりしていたのが、日々の観察を通してほぼ全員が生きているハエに親しみを持つようになる。
 ハエの雄と雌の違いは慣れると肉眼でもすぐに分かるようになる。雄は腹部の末端が黒いし、雌は腹部が膨らんでいる。虫メガネや双眼実体顕微鏡で見ると、雄の生殖器が複雑な構造になっており、前脚のフセツ(先端部の5個に分かれた節)に性櫛(sex-comb、くし状の毛の列)がある。この性櫛はキイロショウジョウバエに近いグループの雄のみに見られる特徴である。雄が雌の腹部や外雌器をつかんだり、交尾の前に翅を広げさせるために使用されている。種により形態が異なる性櫛は、性選択と進化の研究テーマとなっている。
 眼の突然変異体である細眼は、野生型に比べ写真のように個眼数が少なくなっている。野生型雄では約740、雌では780個であるが、それぞれ90個、70個くらいに減少する。白眼は野生型と同じ個眼数であるが、眼に色素がなく白色である。
 ショウジョウバエの形質発現に関わるホメオティック遺伝子(各体節を器官に分化させる遺伝子)は、脊椎動物と共通性があるなど、遺伝学に寄与してきたショウジョウバエは、発生の研究材料として再び脚光を浴びている。

野生型
性櫛
野生型の眼
細眼