話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.65
続「ほんとかな?」オヒシバは雄日芝か?
執筆者:岩瀬 徹
2009年11月25日

 柳宗民 著「柳宗民の雑草ノオト」(毎日新聞社刊)は雑草(※だけではないが)60種について、内容豊かに書かれた本である。続編も出ている。その中の1項にオヒシバとメヒシバに関する文章がある。「メヒシバは雌日芝と書く。真夏の日照に強く生きるからだ」と述べている。
 田中修著「雑草のはなし」(中公新書)にも「メヒシバ、オヒシバは漢字で書けば雌日芝、雄日芝である。」と書かれている。いずれの著者も日芝であると断定したような書きぶりであるが、どうもその根拠は牧野植物図鑑にあるのではないかと想像する。牧野図鑑には「ヒシバは夏の烈しい日にもさかんに繁茂するから日芝である。」と記されている。自然観察会などのときも同じような説明がなされていることが多いのではなかろうか。
 しかし、植物の語源の研究家である深津正氏はその著書「植物和名の語源研究」(八坂書房)の中で全く別の考察をされている。深津氏は作物と雑草との関係に目を向けている。作物のヒエ(いまは雑穀とされている)に似た雑草がヒエシバで、それらはヒエジワとかヒジワと呼ばれたのであろう。のちにこれにオとメが区別され、たくましく見える方を雄ヒジワ、柔らかく見える方を雌ヒジワとし、やがてはオヒシバ、メヒシバともなったというのが深津説である。
 かつてはオヒジワ(ときにはオイジワ)、メヒジワ(ときにはメイジワ)という呼び方があったのは、私も経験の中で記憶している。いまはほとんどオヒシバ、メヒシバであるが。
 以前、静岡県の奥の地域で雑穀の畑を見たことがあるが、その中にシコクビエの畑があった。これは雑草のオヒシバにそっくりでずっと大柄、茎は高さ1mほどに直立し穂も太い。畑の外には普通のオヒシバがあった。ここで、ごく近縁のものが一方は利用される作物、他方は利用されない雑草に進化したと考えた。もし深津説のヒエにこのシコクビエを当てるとよりしっくりする。
 というようなことで、私は日芝は当て字とする深津説に共感を覚えている。
 語源をめぐってはさまざまな説がありそれぞれに興味深いが、記述に用いる場合は、それがご本人の考えなのか、何かから引用されたのかを示してほしいものである。

オヒシバ・メヒシバは「形とくらしの雑草図鑑」157・158頁(全農教)、ヒエ・シコクビエは「校庭の作物」51・52頁(全農教)を参照。

オヒシバ
メヒシバ
ヒエ
シコクビエ