日本には約1,400種類のクモが生息しているが、大半のクモは色素によるもので構造色を持つクモはそう多くない。今まで知る限りハエトリグモ類である。ハエトリグモは眼が良く、雄は雌に対して求愛ダンスを踊る。構造色は求愛に関わっているのだろう。海外の報告であるが、ある種の雄のハエトリグモは我々の目に見えない紫外線を反射しているという。構造色を持つハエトリグモはアオオビハエトリ、ウデブトハエトリ、チャイロアサヒハエトリ、キアシハエトリなどである。熱帯地方では金属光沢のあるハエトリグモが見られ、捕食者から免れるために利用されている可能性がある。クモの構造色については、まだアオオビハエトリ(荒川真子)とウデブトハエトリ(浅間茂)しか報告されていない。チョウは鱗粉であったが、クモは体に生えている毛の構造によって構造色をつくり出している。どんな微細構造を持っているのだろうか。
アオオビハエトリはアリの多くいる場所に見られ、アリを捕食する小さなカラフルなクモである。名前の通り頭胸部の周りに青い毛が生えている。顕微鏡のライトの当て方や液浸により色が変わることから、明らかに構造色である。断面構造を見ると、袋状の中に格子状の構造を持っている。荒川によると、毛の表面の膜と内側の格子による二層構造による干渉効果によって毛の色が生じるという。
標本瓶を整理していた時に、アルコールが飛びカラカラになったウデブトハエトリが出てきた。頭胸部の毛は金色をしている。液浸したら色が消失する。このウデブトハエトリの金色も構造色である。アオオビハエトリと同様に格子状構造を持つが、格子構造は一層でありアオオビハエトリのように重なっていない。
ハエトリグモの脱皮殻には構造色は見られないが、タランチュラの脱皮殻には構造色が見られるという。毛の脱皮方法が異なるのだろうか。網を張るクモは眼があまりよくなく、匂い(フェロモン)や糸により求愛相手を見つけるものが多い。一方、徘徊性のクモは比較的眼がよく、雌に対して求愛ダンスをするものもいる。構造色を利用しているクモは、気をつけてみるともっと多く生息していると思われる。