自然観察会の人気者カタツムリ。雨の日によく見かけるから泥が付いていないと思ったらすごい秘密が隠されていた。ゴキブリの方がもっと油光していてきれいだが、分泌液を出してピカピカにしている。逆に分泌物を出してわざわざ泥をつけているのはニイニイゼミの幼虫である。カタツムリは何も出さずにきれいな状態を保っている。表面がすべすべしているからだと思って電子顕微鏡で観察すると、表面はでこぼこしている。このでこぼこが、汚れの付かない仕組みとなっている。殻の材質は炭酸カルシウムでアラゴナイトとタンパク質の複合体であり、薄くても頑丈である。炭酸カルシウムは、結晶構造の違いから、六方晶系のカルサイト(方解石)と斜方晶系のアルゴナイト(アラレ石)という結晶多形に区別される。どちらの結晶形をとるかは生物種ごとに決まっているが、中には同一の個体内で場所により両方の結晶形をとる貝も知られている。カタツムリは撥水性(水をはじく性質)、親油性(油になじみやすい性質)を持っている。表面の凹凸により撥水効果が現れていると考えられている。泥水などの水性の汚れは、この撥水効果で十分である。ところが親油性であるカタツムリは、水中では油がつかないのである。これはカタツムリは濡れてさえいれば、油がつかないことを意味する。凸凹のタンパク質層が表面エネルギーを変化させていることによる。水とカタツムリの殻より、油とカタツムリの殻の表面エネルギーの差が大きければ水をかければ油は落ちてしまう。のんびりとしたカタツムリはハイテクノロジーを使って汚れを落としている。
ハスやスイレンの葉の表面に水がつくと、広がることなく、丸く球形になり転がり落ちてしまう。これらの葉は凹凸があり、その突起は撥水性で、突起と突起の間の空気による浮力効果により、水滴と表面の接触面積はきわめて小さくなる。塵などが葉の表面にあれば、葉より水との親和性が高いため取り除かれてしまう。
このようにカタツムリの殻をまねて汚れの付かないタイルやトイレ、ハスの葉をまねて、水滴が付かない窓ガラスなどがつくられている。