話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.47
電子顕微鏡シリーズ12 ナノメートルの孔 -ケイソウ土-
執筆者:浅間 茂
2009年08月19日

 書斎を建てようと、建設会社と相談していたら、自然素材としてケイソウ土を勧められた。吸放湿性能がある、シックハウス防止になる、健康によいなどとパンフレットに書かれている。ケイソウ土は植物プランクトンのケイソウの死骸が堆積して化石化してできたもので、古いケイソウ土は完全に風化して白い泥土となっている。ケイソウは植物プランクトンの中で最も豊富に見られる。単細胞生物でほとんどが0.1mm以下の大きさである。ケイソウが出現したのは高等植物と同様に中生代の中頃である。ケイソウの中身が石油に、外の殻の部分がケイソウ土に、言い換えれば燃えやすい石油と火に強いケイソウ土という二つの資源になったと考えられている。埋蔵量は約8億トンと推定されており、海水産と炭水産のケイソウ土がある。ケイソウ土はいろいろなものに利用されている。生ビールは酵母菌が生きたまま残っているビールをいうが、そのままでは発酵してしまうので、低温保存をしてすぐに飲まなければならない。生ビールにケイソウ土を混ぜると酵母菌がケイソウ土の凹凸に付着し大きな固まりとなるため、それを濾過すると、酵母菌のいない常温で保存できるビールができる。それも熱処理していないため生ビールといっている。このようにビールの濾過材、脱臭剤、コンロや耐火レンガの原料、輪島塗りなどの下塗材などに利用されてきた。
 ケイソウ土の主成分はケイ酸であり、ナノメートルのレベルの孔を持つから吸収性・吸着性に優れている。ケイソウを電子顕微鏡で見ると、堅いケイ酸質の殻で被われ、小さな孔が多数開いている。ケイ酸質の殻で被われているために、物質の出入りのために小さな孔が多数必要なのだ。建設会社から4種類のケイソウ土を分けて貰い、電子顕微鏡で観察した。そのうちの一本は2種類のタルケイソウが容易に観察できたが、残りはごくわずかしか入っていなかった。ケイソウ土を壁に塗り固化させるには、固化剤を混ぜる必要がある。大半は合成樹脂を混ぜており、ケイソウ土といってもそれに含まれる実際の割合は、数%から数十%まで様々である。

写真1. タルケイソウの一種a
写真2. タルケイソウの一種a
写真3. タルケイソウの一種b
写真4. ナノレベルの孔