話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.44
電子顕微鏡シリーズ11 空を漂う -マツ花粉-
執筆者:浅間 茂
2009年08月12日

 北半球の寒帯に広く分布するマツ科の多くの植物は、大きさや形は様々であるが気嚢を持っている。古生代石炭紀のシダ状種子植物のステファノスペルマムは、花粉の周りを浮き輪のように気嚢が取り囲んでいる。これがマツ科の気嚢の始まりであると考えられている。この気嚢が二分されて、現在のマツ科の2個の気嚢になった。進化するにつれこの気嚢も小さくなってくる。この気嚢は空を漂うための浮力を増すだけでなく、乾燥時には花粉から水分が出て行く発芽溝をふさぐ役目も果たしている。これらの気嚢の電顕の写真を見ると、小さな孔が空いている。この孔を通って空気が出入りする。
 4月末に雨が降ると水たまりの周りにはびっしりと黄色いマツの花粉が縁取っている。このマツの花粉にはツボカビがつくことが報告されている。この水たまりの中でツボカビがいて、花粉にとりつくのだろう。カエルにツボカビがついて、カエルがいなくなるのではと騒がれたツボカビである。植物プランクトンのケイソウにもツボカビがつく。
 10月末には同様にヒマラヤスギの花粉が見られる。スギという名前がついているが、マツ科である。マツカレハが大発生してはじめて、ヒマラヤスギはマツ科と気づいた。花粉はクロマツ・アカマツのマツ属と大きさと形が異なっている。ヒマラヤスギは気嚢が大きく、なだらかに出ている。
 ヒメコマツはゴヨウマツのことであるが、千葉県内は最も高い山で400mほどしかないので、本来分布すべき標高ではない樹木であるが、尾根筋や崖地に生育している。近年枯死が目立っており、千葉県内では100本以下と推定されている。寒冷期の生き残りで、温度が上昇しても高い山への逃げ場がないため、ほそぼそと生きながらえている状況である。クロマツやアカマツと花粉はよく似ている。
 マツ科だけでなくマキ科も気嚢を持っている。マツ科の中でもカラマツなどは気嚢を持っていない。このように空中を漂うマツ花粉であるが、スギ花粉と比べると、抗原性が少なく、花粉症を引き起こすことは少ない。

クロマツの花粉
アカマツの花粉
ヒメコマツの花粉
ヒマラヤスギの花粉