話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.45
「ガラパゴス」にはならなかった島―その2.生き物たちの到着―
執筆者:高橋敬一
2009年08月12日

 太平洋にある島々のほとんどは、海底火山の活動によって海の上にひょっこりあらわれた島ばかりです。こういう島を海洋島(あるいは大洋島)とよびます。大陸から分かれてできた琉球列島などのいわゆる大陸島では、島が大陸からはなれるときすでにかなりの生き物が島のなかに住んでいますが、海洋島のばあい、なんらかの方法で海をわたらないかぎり、いかなる生き物も島に住むことはできません。要するにたとえ同じ島であっても、大陸島と海洋島の生態系はまったく別のものとして考える必要があるということです。

 人間でしたら船や飛行機を使ってあっというまに世界中どこへでも行くことができますね。でも人間以外の生き物はそういうわけにはいきません。羽のある生き物ですら海の上を休むことなく、そして食べものもないまま長時間飛びつづけるのは困難です。結局、うまく気流にのったり、あるいはまた流木のなかにひそんでいた生き物などのうち、ごくごくわずかな数だけがなんとか生きて島にたどりつくことになります。しかもようやく島にたどりついたところで、そこに結婚相手のオスやメスがいなければ子孫をのこすことはできませんし、だいいちたべものがなければ自分が生きのこることすらおぼつきません。海洋島に住みついた生き物たちの祖先は、このようにたいへんな苦労と幸運の結果生き残ることができた、ほんのひとにぎりの個体なのです。
 けれども悪いことばかりではありません。いったん繁殖できるようになれば、そこは競争相手や敵も少ない文字通りの楽園です。敵がいるためにこれまで住めなかったような場所にも勢力範囲を広げ、近縁でありながらも少しずつ異なる数多くの種類へとすみやかに分化(進化)していきます。
 ダーウィンがガラパゴス諸島で出会ったのもそうした生き物たちでした。ダーウィンはこの現象を考えぬいていくうちに、あの有名な進化論にたどりついたのです。
 海洋島は、大陸などにくらべればどれも生まれたばかりの「若く、危うく、そして脆い」島々ばかりです。それだけではありません。そこにすむ生き物ともども、あっというまにまた海のなかに消えていく運命にあります。
 地球の歴史は46億年。この長い年月のあいだにそれこそ無数の海洋島が現れては消え、同時にたくさんの固有種が生まれては島と運命を共にしていったことでしょう。そしてじつはそれはなにも海洋島にかぎったことではないのです。地球の歴史はわたしたち人間が思っている以上に、たえまない大きな環境変化をこうむってきました。地球規模の環境変化によって生物の大量絶滅が起こるたびに、それをきっかけとしてまた新たな大進化が引き起こされてきたのです。わたしたち人間も恐竜の絶滅と引きかえに生まれ、やがては他の生き物と同じくほろびさっていく運命にあります。もちろん、人間がそのことにやすやすと同意するとは思えません。むしろ手を変え品を換え、自分に都合のよい論理を持ち出してきては今後も地球環境をいじくりまわし、なんとか生き残りをはかろうとすることでしょう。じつをいえば自然破壊も自然保護も、「自分保護」というひとつの立場を別々の名前で呼んでいる「地球環境のいじくりまわし」にすぎないのです。

浜辺に打ち上げられた流木。 こういう流木の内部にたまたまひそんでいた昆虫が、海流によって分布を広げていきます。
アリの巣にすむナガカメムシの一種。 世界的にみても、アリの巣のなかにカメムシが住んでいるというのはとても珍しいことです。 (高井幹夫氏撮影)
オオメカメムシの一種。 (高井幹夫氏撮影)