話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.69
銚子に秋咲くハマオモト
執筆者:久保田三栄子
2009年12月24日

 先ごろ数名の仲間と銚子へイソギクの花を見に行った。イソギクは少々盛りをすぎてはいたが、美味しい磯料理を食べるのも目的の一つでありお天気に恵まれて小春日和のぽかぽか陽気が心地よい晩秋の植物観察会になった。
 いつもイソギクを観察している外川漁港の先の犬若の崖に登る。崖への道は細くて急な登りではあるが、一気に登りきると開けた場所に出る。青い空と黄色のイソギク。眼下には岩に打ち寄せる白い波。絵になる光景が広がる。
 崖の中腹に数年前から気になっているハマオモトの株がある。最初気づいた時は巾の広い2~3枚の葉が崖の上から確認できた。ハマオモト? まさかと思いながら数年が過ぎた。その後、その株は確実に大きく育ち見違えることなくハマオモトだった。
 人が種子を投げ捨てたのか、鳥が運ぶにしては種子が大きすぎるし、などなど思いながらまた数年が経った。そして今回そっと崖の中腹をのぞいてみるとまた大きく生育した株はなんと花を咲かせていた。紛れもなくハマオモトの花が咲いている。季節は11月下旬である。すわっ地球温暖化の影響か…
 ハマオモトは古語でハマユウ(浜木綿)といい万葉集に1首だけ詠まれている。

 ハマオモトは真夏に咲く白い花が南国的な香りをもたらし人びとに親しまれてきた。西南日本の海岸に生育し、房総半島南部までその自生地が及んでいる。

ハマオモト線が崩されてきた

 ハマオモトの分布には黒潮が影響しているが冬の寒さには弱い。ハマオモトの分布については小清水卓二博士(1952)のハマオモト線というのがある。それはだいたい年平均気温が15度の等温線と一致するという。さらには年最低気温が氷点下3.5度を下らないことも条件であるといわれている。このような条件から分布の範囲を示したものをハマオモト線と名づけている。
 それによると房総半島南部あたりまではハモオモト線の範囲内であるが、銚子はそれから外れている。ハマオモトの種子は大きくて海流に乗って広まる可能性があるといわれるが今回の銚子のハマオモトは、生育状況から人によって種子か株が捨てられた疑いがある。
 以前九十九里浜の砂浜に、ハマオモトがいかにも自然っぽく植えられているのを見たことがあるが、これは危ない。温暖化にともない暖地性の植物が北上する傾向はあるかもしれないが、人為的に分布線が崩されてしまうのは困ると思う。
来年また確認に行きたいと思っています。

崖の中腹のハマオモト (2009年11月27日撮影)
花をつけたハマオモト (2009年11月27日撮影)
全農教 「写真で見る植物用語」 117頁より。