話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.70
南の島チョットだけ探検記・特別編 南の島から2009
執筆者:鈴木信夫
2009年12月24日

 北風の吹く頃になってしまったが、季節はずれの「チョットだけ探検記・特別編」をお届けする。今年も4月下旬に石垣・西表に出かけたが、今回を含め過去4回の調査の中で、天候的には最悪の旅となってしまった。4月下旬、沖縄地方は梅雨入り直前で、天気が悪いのが普通である。にもかかわらず、今までがよすぎたのは、奇跡だったのだろうか。
 南の島でどうしても会いたい、近くで見たい、確認したい生き物は色々いたが、悪天候という逆境の中に大きな収穫が転がっていた。カウントダウン形式でいくと、第5位(会いたいもの)は、怖いけれどやはりハブである。今回はじめて、西表でハブに遭遇?した。といっても、可哀想に車にひかれたのか、生きてはいなかったが……。

 第4位(確認したいもの)は、昨年、石垣で見た、トンボの翅についていた謎の虫である。はじめ、ダニかな?と思ったが、写真を拡大すると翅がある。半翅系昆虫にも見えるが、図鑑やネットで調べてもさっぱりわからない。そもそも翅に虫がついているトンボなど、見た事がなかった。今年は気合いを入れて撮影したので、ようやく双翅目のヌカカの仲間とわかった。ヌカカは哺乳類等の血を吸うが、昆虫にも手を出すとは、恥ずかしながら知らなかった。
 第3位と第2位(近くで見たい)は、コノハチョウとベッコウチョウトンボである。昨年、西表のジャングルを歩いていたとき、数十メートル先の林中を独特の色をした大きめのチョウが1頭、飛んでいた。瞬間的に「絶対にコノハチョウ!」と思った。しかし、アッという間にその姿は、木々の間に消えてしまった。それが今年、西表の大富林道で数頭のコノハチョウを間近で見る事ができて感動した。子どものように喜んでいたら、写真を撮り忘れた。一方、ベッコウチョウトンボは、前にも書いたように、以前、空高く飛んでいて歯ぎしりをしたトンボである。偶然、迷い込んだ西表の脇道で再会できた。しかも群れをなして、いかにも南国色の青空をバックに、悠々と旋回していた(この日が今回の旅で、一番天気がよかった)。なかなか低いところに留まってくれなかったが、探検隊の若い隊員がねばって撮影した。

 会いたい! 近くで見たい! 確認したい! の第1は、やはり調査本来の目的、イシガキシリアゲ(それもオス)である。調査1年目は全くの空振り、2年目でようやくメスを見つけた。3年目の今年、石垣の於茂登岳で、ようやくオスに出会えた。イシガキシリアゲのオスの腹部背面には、非常に長い棒状突起があるが、写真でもそれがよくわかる。実は今回、オスを最初に見つけたのは前述の若い隊員で、探検隊の隊長としては少々焦った。すると、立場の怪しくなった隊長の足元に交尾中のイシガキシリアゲが現れたのである。ミナミシリアゲ属の虫の交尾は、誰も観察した事がないかも? と思いながら、隊長は少しだけ自信を取り戻しつつ、何枚も写真を撮った。今回の調査で最高の収穫であった。
 西表にもミナミシリアゲの仲間がいる事はわかっているが、残念ながら今回も確認できなかった。ちなみに、この西表での調査は今までで一番、過酷なものだった。という事で、南の島の探検は来年もまた、めでたく? 続くのであった。

謎の虫に寄生されるヤエヤマサナエ
謎の虫の正体
ベッコウチョウトンボ (鈴木智也 撮影)
イシガキシリアゲのオス