話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.20
表と裏
執筆者:田仲義弘
2009年05月20日

 桜、カタクリ、モンシロチョウそれともツマキチョウ。春の感じ方は人様々でしょう。私のそれはヤマトハキリバチの雄です。ミツバチよりやや小さく、体色は黒ですが白色の毛におおわれ、前肢の先の方が白いのですぐにわかります。そして4月に入ると雌が現れ、中旬には巣作りを始め5月の中頃まで活動しています。
 ハキリバチ類は花蜂の一種ですから、子供の食料として、【タンパク源として花粉】【エネルギー源として蜜】を混ぜ合わせたものを用意します。蜜は飲み込んで運びますが、花粉の運び方には3パターンあります。大部分の花蜂は足(肢)の長い毛で花粉を運び、ムカシハナバチのようにほとんど毛の無い花蜂では花粉も飲み込みます。そしてハキリバチ類は腹部下面の密生したやや長い毛で花粉を運びます。蜂の雄は子育てに一切関与しませんので、花粉運搬用の毛はありません。そしてヤマトハキリバチは腹部下面の花粉運搬用の毛が鮮やかなオレンジ色をしているので他の仲間からの区別は容易です。ハキリバチ類の食料は他のハナバチに比べ蜜の割合が多く、その液状の食料を収容するためにコップの様な入れ物が必要となり、そのコップを葉の切片で作っているのです。

 コップは、楕円形と円形の2種類の葉で作ります。楕円形の葉はコップの壁、円形の葉はコップの底に蓋になります。できあがったコップを見ると、外側の葉は葉の表側が外を向いているのに対し、内部の葉では葉の表側が内側に向いています。これには葉の表側の方の撥水性が強いことが関係していると思われます。ヤマトハキリバチでは、地面に穴を掘ると、奥に楕円形の葉を運び込み、表側を壁に押しつけます。少しずらしながら4枚貼ります。次に表を内側にした葉で壁を作ってゆきます。その後丸い葉を運び込んで底を造ります。コップが完成すると、花粉と蜜を搬入します。まず頭から入って蜜をはき出し、前に運び込んだ材料と混ぜ合わせます。そして一旦出て腹から入り直し、花粉を払い落とします。十分に食料が貯まると、産卵し、丸い葉を何枚も運び込んで蓋をします。この蓋は次の部屋の底も兼ねることになります。最外部の葉は土中からの水がしみこむのを防いでいるわけです。
 葉の切断は大きい楕円形のものでも10秒程度です。両後肢で葉を両側からはさみ、大顎で切断しながら前肢・中肢で丸めます。この時すでに、巣作りの手順からの葉の表側と裏側を区別しています。もし、葉表が外側を向いている葉を運んでいるのを見たらしめたものです。付近で葉が切られている木を探しましょう。しばらくの間、数分おきに、ハキリバチの葉の切断行動を観察することができます。

楕円カット
ヤマトハキリ円切断
ヤマトハキリ楕円運搬
ハキリバチの巣