話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.19
ツグミやジョウビタキの「さえずり」
執筆者:唐沢孝一
2009年05月13日

 2月から3月、フィールドでウグイスやヒバリの初音を耳にする。今年もまた春が巡ってきたことを実感する。カレンダーによる季節とはちがって、生物が教えてくれる季節はどこか温もりが感じられほっとする。
 ウグイスやヒバリが美声でさえずるのに対し、ツグミの鳴き声はさえない。「クイッ」とか「クワッ」といった実に簡単でそっけないものだ。「先生、ツグミはさえずらないんですか?」という質問もよく受ける。ツグミの名は「口をつぐむ(噤む)ことからツグミ」に由来するという。冬には各地に生息しているが、夏には姿も見えず声も聞かれないことから「噤み(ツグミ)」である。ところが、本当のところは、ツグミは優れた歌い手であり、繁殖地のシベリアでは美声でさえずる。日本でさえずらないのは非繁殖期の越冬地だからだ。

ならば「日本ではツグミのさえずりは聞けないのか」と言うと、「う~ん、さえずらない、とも言えない・・・」と、曖昧になる。というのも、4~5月ころまで滞在する個体の中には、時としてさえずることもあるからだ。高野伸二さんの『フィールドガイド・日本の野鳥』には「渡去前にはポピリョン、ポピリョン、キョロキョロ等とさえずる」とある。
 同じことはジョウビタキでもいえる。日本には冬鳥として渡来し、越冬中は「ヒッ、ヒッ、ヒッ」とか、「カッ、カッ、カッ」の地鳴きしか耳にしない。美しいさえずりは聞かれない、というのが一般的だ。しかし、渡去の直前になるとさえずることがある。35年ほど前の3月下旬、修学旅行の引率で京都に出かけたおり、日溜まりの寺院の庭でジョウビタキのさえずりを一度だけ耳にしたことがある。
 渡去直前のツグミやジョウビタキ、「さえずり」に要注意である。

ツグミ
日本で越冬中は文字通り「噤み(つぐみ)」である。 (清澄庭園にて2009年1月18日撮影)
ジョウビタキ(♂)
多摩川の羽村取水場近くの多摩川にて (2009年2月4日撮影)