話のたねのテーブル

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No.100
薬草豆知識(その3) センブリ
執筆者:廣田伸七
2010年08月04日

 薬草豆知識としてゲンノショウコ、ドクダミを連載したが、今回は腹痛や健胃の特効薬センブリを紹介する。
 センブリは日本薬局法(注1)で薬用植物として収載されている薬草のなかでもトップともいえる薬草である。センブリというと誰もがすぐに苦い薬草と思い浮かぶ程強烈に苦い草である。〈煎じて千回振り出しても苦みがあり、腹痛や健胃薬として効く〉ということから「センブリ(千振り)」と名が付いたと言われている。
 センブリは日本特産のリンドウ科の二年生草本で、日本全国の雑木林や松林に生える。茎は四角形で高さ20cm前後、葉は細長い線形で対生する。秋に茎先や葉腋に花冠の先が深く5裂し、白色で紫色の条線がある花を咲かせる。
  センブリは古い時代には健胃薬ではなく、蚤(ノミ)や虱(シラミ)を殺す殺虫薬として使われていた。医療薬として使われたのは江戸時代の初期からで、遠藤元理の「本草弁疑(ほんぞうべんぎ)」(1681年)に「腹痛の和方に合するには、此当薬(トウヤク:センブリの別名)」とあるのが初めてといわれ、それ以前は寺島良安の「和漢三才図会」(1713年)に「今の人はもっぱら当薬(トウヤク:センブリの別名)で子供の肌着を黄色に染めて、蚤・虱から守るのに使っている」と書いている。(薬草カラー図鑑/主婦友社刊より)
  腹痛の薬草として効用が認められて広まっていったのは江戸末期からで、センブリが苦味健胃薬として認められ、明治25年(1892年)改正の第2版の日本の薬局法には竜胆(リンドウの根)に代替しうる薬草とされ、大正9年(1920年)改正の第4版の日本薬局法には正式に収載されて今日に至っている。成分は、苦みはスエリチアマリン、スエロサイド、ゲンチオピクロサイドなどの苦味配糖体によるもので、他に、エリスロセンタウリン、オレアノール酸なども含まれている。
 薬草としての採取時期は、秋の花が咲く頃が最適で、根ごと引き抜いて、日干しにして保存し、胃や腸が痛むときに(1日量0.3~1kgを煎じて)服用すると効果抜群、また、一説によると粉末か刻んだセンブリ15gを、ホワイトリカー200ccに漬け、密栓し冷暗所にて1~3ヶ月置いてから、1日1回手のひらにつける。
 これほどの効能のある薬草なので、以前て頭のはげた部分にすり込みマッサージを気長に続けると脱毛症にも効能有りといわれていから栽培の研究が行われたが、大量に栽培する技術はまだ開発されていないようである。

(注1)日本薬局方:薬剤の処方、品質などについて標準を与えるための厚生省告知。薬草法に基づく。(広辞苑)

●センブリは「芽ばえとたね」106頁に掲載

センブリ.秋に高さ20cm前後になり白い花が咲く