話のたねのテーブル

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No.96
薬草豆知識(その1) ゲンノショウコ
執筆者:廣田伸七
2010年07月07日

ゲンノショウコ、ドクダミ、センブリは日本薬局方(注1)で薬用植物として収載されているなかでもトップクラスの薬草である。これらの薬草はその草が最も生育旺盛な夏から秋にかけて採取し調整することが大切である。この季節になったので薬草についてシリーズで話題提供する。
ゲンノショウコは「フウロソウ科」の多年生草本で茎は地表を横にはって広がり、長さ30~60cm。根本の葉は長い葉柄があって大きく5裂し、茎上部の葉は3裂する。茎や葉に白い毛がある。7~10月に葉腋から花柄を伸ばし、花弁5枚の白色~淡紅紫色の花を咲かせる。この花の色が東日本では白色が多く、西日本では淡紅紫色が多いといわれている。ゲンノショウコは全草にタンニン、没食子酸、クエルセチン、コハク酸が含まれていて下痢、腹痛、整腸に効果があることが昔から知られている。
《貝原益軒が『大和本草(やまとほんそう)』(1708年)という本に「陰干しにし、粉末にし、湯にて服す、よく下痢を治す、赤痢に尤も可也。また、煎じても、或いは細末にして丸薬にしても皆効果がある」と記してある。また、小野蘭山は『本草網目啓蒙(ほんそうこうもくけいもう)』(1803年)で「根苗ともに粉末にして一味用いて痢疾を療するに効あり、故にゲンノショウコと言う」(薬草カラー図鑑、主婦の友社 1982年)より》 これを要約すると、ゲンノショウコの茎や葉を乾燥して煎じて服用、または粉末にして服用すると下痢が止まる、つまりその効果が“てきめん”に現れることから「現に証拠が現れる」ということから、ゲン(現)ノショウコ(証拠)と言われるようになったようである。
 昭和の中期頃までは、農村、山村、漁村などでは現代のように腹痛や下痢止めの薬品は簡単には手に入らなかった。富山の置き薬が(注2)唯一の薬品であった頃まではゲンノショウコは貴重な下痢止め、腹痛、整調薬であった。特に貝原益軒の「赤痢に尤も可也」とあるように赤痢の特効薬であった。その証拠にゲンノショウコの方言にセキリグサ、センニンタスケ、センブリなどがあることからもうなずけることである。

●採取時期と調整法及び使用法
土用の丑の日の頃が下痢止めに効果のあるタンニンが最も多く含まれる時期なので、このころに全草を採取し、きれいに水洗いしてから陰干しにする。使用法は乾燥したもの20gを水400ccで煎じ、水が半量になるくらいまで煎じたものを、1日10~20回服用する。これは便通にも効果がある。
(注1)日本薬局方:薬剤の処方、品質などについて標準を与えるための厚生省告示。薬草法に基づく。(広辞苑)
(注2)富山の薬屋が全国の農村、山村、漁村の各戸を廻って歩き、希望者に熱さまし、風邪薬、腹痛、頭痛薬など各種の薬をひとふくろに入れ、預けて置き、1年後に来てその間に使った薬の代金を集金し、併せて薬を補充してまた預けて行く行商。

●ゲンノショウコは「日本原色雑草図鑑」119頁、「ミニ雑草図鑑」142頁に掲載

ゲンノショウコ(白花のもの)
ゲンノショウコ(果実と花)
ゲンノショウコ(淡紅紫色のもの)
ゲンノショウコ(たね)