話のたねのテーブル

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No.61
果実から寒天の様な清涼食品ができるカンテンイタビ(寒天イタビ)
執筆者:鈴木邦彦
2009年10月28日

(jelly-fig、Ficus awkeotsang MAKINO)

 台湾特産と言われるこの植物は、台湾の山地に自生しているクワ科の植物で、花蓮の玉里や台東の関山、嘉義や南投などの山岳地帯も産地として知られている。しかし、最近では、自然のものは減ってきて、栽培されるものが多くなってきたようである。
 同じクワ科の植物にイタビカズラ(板碑榴)と言う植物がある。暖地の海岸の岩場や石垣などに這って生えるつる性の植物で、その意味は、イタビ(イヌビワの別名)に似たつる性の植物という意味である。カンテンイタビの方は、カンテンが出来るイタビカズラで、カンテンイタビカズラのカズラが省略されたものと思われる。

 カンテンイタビは台湾では「愛玉子」と呼ばれる。英名のjelly-figはゼリーが出来るイチジクの意味である。植物学的にはイチジクと同じFicus属で、果実は長さが6~8cm程度の長めの倒卵形で、イチジクと同様に無花果、すなわち、花がないのに実が着く植物である。花が無いというのは、花が見えないからであって、外側を果托が被っており、その中にたくさんの花が着く。実った果実を切り開いて裏返すと、写真2に示すように、たくさんの小さい種子が露出する。この種子を集めて袋に入れ、水中で揉み出すと、周りの水が次第に固まって寒天やゼリーの様な状態になる(写真3)。

 台湾では、この寒天状に凝固したものを切り分け、砂糖や蜜を加えて食べる。少し酸味を加えて良く冷やしてから食べると非常に美味しい。特に、暑い時期の台湾では清涼食品として素晴らしく、人気がある。台湾を旅すると、多分、夜市を訪れることになるだろう。どこの夜市でも屋台などで盛んに売られている一般的な食べ物である(写真4)。凝固する成分はペクチンの一種で、健康にも良い食べ物であると言われる。

 わが国では暖地の海岸地帯などを歩くと、オオイタビ(F. pumila L.)と呼ばれる全体に大形のイタビカズラがあり、ミカン園の周辺の樹々に絡んだり、のり面に生えていたり、石垣の装飾用に植えられていたりする。かっては、カンテンイタビはこのオオイタビの変種とされていた時期もあることからも予想できるように、カンテンイタビと同様に寒天状の清涼食品を作ることが出来る。
 それでは、カンテンイタビをなぜ台湾で「愛玉子」と言うのだろうか。台湾通史の中の「農業志」によると、1821年頃、商品を探しに嘉義へ向っていた商人が、大埔郷の渓流のほとりで自然に凝固したこの植物の果実を見つけ、その果実を揉み洗いしてみると、ゼリー状に凝固することを発見したという。その商人は、それに娘の名前である「愛玉」と名付け、そのゼリーを「愛玉凍」として販売するようになった。そして、愛玉凍の原料となる果実を「愛玉子」と呼んだという。種名のawkeotsang は、台湾名の愛玉子に由来する。この学名を付けたのは植物分類学者の牧野富太郎博士である。
 東京都の台東区には「愛玉子」という名前の専門店があるという。最近ではインターネットの通販で、缶詰などの形で簡単に購入できる。自分で愛玉凍を作ってみることができるキットも売られているようである。愛玉子は果実を表し、愛玉凍は、ゼリー状の製品をあらわす。

写真1:カンテンイタビの結実の状況
写真2:カンテンイタビ果実を切り開き、裏返して乾燥させたもの。種子が露出する。
写真3:種子を布袋に入れ、水中で揉むとゼリーができる。
写真4:台湾の夜市では、この様な光景がよく見られる。
写真5:つる性で岩などに絡みついて伸びる。
写真6:同じように利用できるオオイタビの果実