話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.15
寄生と共生
執筆者:田仲義弘
2009年04月23日

 イヌビワは、今の時期に葉はありませんが、丸い実が付いている木もあります。これは実ではなく、未熟な雄花で、中にはイヌビワコバチの虫こぶが詰まっています。イヌビワコバチはイヌビワの子房に産卵し、虫コブになった子房の中で幼虫は成長します。前に書きましたが、植物に産卵し、虫コブを作らせ子供を育てる虫は様々いて、中には寄生というより共生といえる関係の種類もあります。
 イヌビワはイチジク(無花果)属、実のようなものの中に多数の花を付けます。てっぺんに入り口はありますが、何層ものヒダがあり、中に入っていく虫はただ一種類。それがイヌビワコバチです。その専門家ですら、無事には潜り込むことはできません。ヒダをかき分けると翅(ハネ)はこすれ傷み、時には抜け落ちてしまいます。入ったが最後、出ることはできませんが、中には産卵の為の子房が幾らでもあります。イヌビワの花(実)はイヌビワコバチのためにあるかの様ですが、イヌビワにはどのようなメリットがあるのでしょう。

 イヌビワコバチの虫こぶは初夏に成熟し、まずオスが羽化し、まだ虫こぶの中の雌と交尾します。翅の無い雄は外界に出ることなく一生を終わります。雌が虫こぶから出てくる頃、葯は成熟し花粉を出しています。そこでイヌビワコバチの雌は体に花粉を付けて出口まで登り、開いている出口から楽々と外に飛び出します。そして産卵用のイヌビワの未熟な実(花)を探し、ヒダをかき分けて入り込みます。
 未熟な実は2種類あります。1つは中に雌花があり、受粉すると秋には種子を付けます。ただし花柱が非常に長く、イヌビワコバチは子房に産卵することができません(イヌビワ用)。もう一種類は花柱が短く、イヌビワコバチの雌は産卵することができます(イヌビワコバチ用)。イヌビワコバチ用の実では秋に入り口が開いてハチの雌が飛び出し、未熟な雄花の実に入り込み産卵します。その実が冬に残っているのです。
 花が花粉を媒介する動物に提供するご褒美としては、蜜が一般的で様々な虫が訪花します。しかし花の立場からすれば同種の花だけを訪花する虫が理想でしょう。イヌビワは種子用と虫こぶ用の二種類の花を用意することで、イヌビワコバチとの間に密接な共生関係を築き上げました。

完熟実2種 左:種子を持った果実、右:イヌビワコバチ用果実
侵入
雄と実
脱出寸前