話のたねのテーブル

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No.24
南の島チョットだけ探検記 第3回 南の島のトンボたち
執筆者:鈴木信夫
2009年06月03日

 自然観察大学で、トンボの解説は、だいたい私の担当である。そのため、トンボの専門家と思われがち(本人としては、少々後ろめたい気がしている)だが、私の専門はシリアゲムシである。ただ、トンボが大好きなのは間違いない。一般的なトンボのグループ分けは、前翅と後翅の形がほぼ同じで、腹部が細長い均翅亜目(イトトンボ亜目)、後翅が前翅より幅広く、腹部が太い不均翅亜目(トンボ亜目)、翅は均翅型で腹部が太い均翅不均翅亜目(ムカシトンボ亜目)の3つからなる。

 南の島に来て、均翅亜目の中でよく見かけたのは、リュウキュウベニイトトンボだった。本州・四国・九州に分布するベニイトトンボは絶滅が危惧されているが、リュウキュウベニイトトンボの方は、南西諸島では最普通種らしい。また、均翅亜目にはハグロトンボなどを代表とするカワトンボ科も含まれるが、このカワトンボを一回り小さくしたようなミナミカワトンボ科の仲間が、石垣・西表だけに2種生息する(どちらも台湾産の矮小亜種)。チビカワトンボとコナカハグロトンボで、はじめて見たときの印象は「形が、おもしろい!」、というか、チビカワトンボに至っては、「なんか変」、であった。
 両種とも渓流沿いや湿り気の多い林道などで見られたが、コナカハグロトンボは、開けた林道の乾いた砂利の上にもいた。チビカワトンボはオス・メスとも形態・色彩ともに似ているが、コナカハグロトンボは、地味なメスに対して、オスは後翅の先端寄りの半分が褐色を呈し(最先端部は透明)、きれいに輝く。腹部は、前方の6節が鮮やかなオレンジ色である。蛇足だが、後翅は、前翅より少し短くて幅も広く、「均翅」とはいいがたい。

 不均翅亜目のトンボでは、サナエトンボ科のヤエヤマサナエをよく目にした。このトンボも、石垣・西表だけに分布する種である。平成18年版のレッドデータブックでは、ランクが準絶滅危惧(NT)となっている。サナエトンボの特徴は、左右の複眼が頭部の中央でわずかに、一点で接していることである。一方、イトトンボ亜目のそれは、完全に左右に離れている。不均翅亜目でもトンボ科は、左右の複眼が頭部中央で、広く接している。
 トンボ科では、ウスバキトンボはもちろん、ベニトンボなどにも会えた。西表の明るい林道を歩いていると、麦わら色のトンボがさかんに飛んでいる。ベニトンボのメスやオオハラビロトンボなどと思われるが、その中でひときわ大きいのがキイロハラビロトンボである。本州にもいるハラビロトンボは、どちらかというとトンボ科では、小さい方のトンボである。しかし、このキイロハラビロトンボ(国内では西表のみに生息)は、本邦産のハラビロトンボ属では最大の「ごっつい」奴だ。ヤゴは樹木の洞などにたまった水の中にすみ、ボウフラなどを食べて成長するそうで、生態も不明な点が多いようである。
 写真を撮りたかったのに、高いところを飛んでいて歯ぎしりをしたのが、トンボ科のベッコウチョウトンボだった。『沖縄の昆虫』で見て以来、あこがれのトンボだったので、空高く飛ぶ姿を見たときは、降りてくるよう祈ったのだが願いは通じなかった。
 せっかく南の島に来たので、次回は「波打ち際の生き物たち」の話をする。

チビカワトンボのメス
コナカハグロトンボのオス
ヤエヤマサナエのオス
キイロハラビロトンボのオス