■タデ食う虫のタデは?
3年前に霧ヶ峰高原を歩いたときのことです。高層湿原で有名な八島湿原の西端に、湿原全体を見渡す高台があります。ここにはベンチや湿原に咲く花の写真パネルもあります。パネルの前でボランティア解説員(おじさん)が数名の人に花の説明をしていました。少し離れて聞いていたのですが、その中で面白い話がありました。
「いまここの湿原にはイブキトラノオという草が花を咲かせています。この花は嫌な臭いを出しますが、そんな臭いに引き寄せられて集まってくる虫がいます。イブキトラノオはタデ科の草です。それで“蓼食う虫も好きずき”という諺が生まれたのです。」
これは新説を聞くものだと思いましたが、集まった人は熱心にメモを取っていました。口づてに広まるかもしれません。田んぼの中やまわりに生えるヤナギタデ(マタデ)は葉を噛めば辛い、そんな草を食う虫もいるのだ、というのが諺の起こりだと伝えられます。それは納得なのですが、イブキトラノオ説はどこから起こったのでしょうか。花に集まる虫は草を食うわけではないのに? 何か謂われがあれば知りたいところです。
■アサガオのつるは左巻き?
日曜日のテレビに、視聴者が回答者になるクイズ番組があります。腕に覚えありといった回答者ぞろいで、その博識ぶりに感心させられます。つい先ごろ見ていたとき、「アサガオのつるは左巻きか右巻きか」という問題がありました。
回答者は「右巻き」と答えたら×とされました。これはかわいそう。
つるの左巻きか右巻きかは、絶対的にどちらとはいえません。たとえばアサガオのつるをのびる方向に下からたどると時計回りになるから、これは右巻きとなります。巻いたものを上から見ると反時計回りに見えるので左巻きといえます。
つまり見る方向によって左巻きとも右巻きともいえます。他のつる草も同様です。このことは、小著「雑草博士入門」(全国農村教育協会刊)の中に模式図入りで説明しています。図鑑類にも両説がありますが、おそらく「牧野植物図鑑」の左巻き説を根拠にして問題を作ったのでしょう。
もし私が回答者であったら完全に×でした。
■松ぼっくりはマツの何?
今年の3月に幕張メッセで日本フラワーガーデニングショウというのがありました。現在のガーデニングに関するさまざまな展示があって、それなりに楽しい展示でした。
会場の一角でアトラクションとしてクイズ大会がありました。大勢の人を集め、問題を出しては○、×に分け、だんだんに人数を絞り込み、最後に残った人には豪華賞品がもらえるというものでした。
植物に関するクイズだからいいところまで行くだろうと、野次馬として参加をしました。第1問は「松ぼっくりはマツのたねである。○か×か」。さあこれは困った。松ぼっくりは球果と呼ばれ、硬い鱗片の集まりで、中にはたしかに種子が入っている。しかし全体をたねというのはどうか。いうなれば花序の変形でしょうか。
こんなことを考えているうち時間がきて、仕方ない×の方に入ったら見事に外れでした。進行をしていた森林アドバイザーとかいう人はこれは○ですと自信ありげでした。クイズは勘であって理屈ではないわけです。第1問ではねられてしまい、参加した相棒とともに悔しい思いをしました。
「雑草博士入門」全国農村教育協会 発行 p62 より転載
「写真で見る植物用語」全国農村教育協会 発行 p83 より転載