話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.63
絶滅危惧種タコノアシを保護するには
執筆者:飯島和子
2009年11月11日

 タコノアシはタコノアシ科(以前はベンケイソウ科)の植物で花序の様子が蛸の足の吸盤のように見える(写真)ことから名付けられた。さらに、晩秋に植物全体が赤くなった様子はまさに茹でダコを思わせる。かつては水辺の氾濫原や湿地、水田の周りの湿地帯や休耕田に生息していた。しかし、近年、川岸をコンクリートにするなどの管理によって、広い川原がなくなり、タコノアシの生息範囲も狭められている。
 河川の管理によって土壌が富栄養化し、オニウシノケグサなどの帰化植物が増えているため、減少したとも言われている。このようなタコノアシはレッドデータブックの絶滅危惧2類に指定されている。
 一方、多摩川下流域では市民団体によって保護され、回復されつつあるとの報告がある。そこで、我々は保護活動が活発になされている多摩川下流域の保護活動の効果について検討するために、多摩川におけるタコノアシの生育状況、種子生産、種子発芽の特性などを調べた。

 2001年8月に多摩川の中流域では約5メートル×32メートルの砂利のある場所に草丈30センチメートル以上の個体が約110生息していたが、これらの個体は2001年9月の台風で全滅した。下流域では2001年から2002年にかけて、草丈が30センチメートル以上の個体数は394から460に増加し、果実を形成した個体は190から219に増加した。果実を形成した個体の草丈は40センチメートル以上であった。また、生息範囲も4メートル×6メートルから12メートル×7メートルに広がった。ここではタコノアシが繁殖していることがうかがえた。

 2002年の下流域にはタコノアシのほか、セイタカアワダチソウ(キク科)、オギ(イネ科)、アシ(イネ科)、ツユクサ(ツユクサ科)、オオオナモミ(キク科)、シマスズメノヒエ(イネ科)の群落が見られた。オギやツユクサの群落内にはタコノアシが生息していたが、セイタカアワダチソウの群落内にはタコノアシは見られなかった。このことから、セイタカアワダチソウとタコノアシは共存できないことが確認できた。
 タコノアシの花の構造はがくが5枚、花弁の痕跡が5個、おしべが10本、めしべが1本で子房は5個に分かれていた。花期は8~9月で、花期の終わりに受粉してできる種子による有性生殖と地下茎による栄養生殖とによって繁殖していた。実験によると自家受粉も可能だったが、発芽率が約30%と低い値だった。他家受粉で形成された種子の発芽率が約70~90%で高かったことから、基本的には他家受粉がおこなわれていると考えられる。しかし、虫媒花か風媒花かについては特定できなかった。
 タコノアシの種子は長さ約0.5ミリメートル、幅約0.2ミリメートルと非常に小さく、表面には多数の突起がみられた。種子数は3.3から4.4メリメートルの大きさの果実1個の中に200~500個入っていた。11個の果実に含まれる種子数を数えたところ、その平均は326個であった。果実を形成した個体数219、1個体の平均果実数51、1果実の平均種子数326であったことから、多摩川下流域でのタコノアシの種子生産は約3,600,000個/年であった。タコノアシの種子の発芽には光が必要であった。24時間のうち、12時間10℃で暗くし、12時間20℃で明るくした春に近い気候条件で92%と高い発芽率を示した。これより高い夏の温度(12時間20℃暗と12時間30℃明)では70%、冬の温度(12時間5℃暗と12時間10℃明)では13%であった。 
 今回の調査から、次のようなことが明らかになった。多摩川下流域での保護活動の効果が認められた。多数生産された種子は土壌中に保存され、春に発芽する。他家受粉で高い発芽率であったことから、群落が形成されることが重要であると考えられた。

タコノアシは全農教の「日本原色雑草図鑑」92頁を参照

花をつけたタコノアシ
タコノアシの秋の状態
タコノアシの赤く染まった果実
タコノアシの果実