話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.39
クダモノトケイ(パッションフルーツ)は、情熱的な果物か?
執筆者:鈴木邦彦
2009年07月22日

(Passionfruit、Passiflora edulis SIMS.)

 もともとはブラジルなど、南アメリカを故郷とする植物で、日本では普通に見られないはずだが、関東地方でも、時々庭に植えられたトケイソウの花を見ることがある。しかし、これには果実は余り見られず、着いても小さく美味しくない。ボンロンカヅラとも呼ばれる観賞用の種類である。
 最近、日本でも時々濃い紫色の果実が売られている「パッションフルーツ」は、和名ではクダモノトケイ(果物時計)あるいはクダモノトケイソウという。名前の意味は、「果物として食用にされるトケイソウ」である。英語名、パッションフルーツのパッション(Passion)という語を辞書で引いてみると、「情熱」という意味である。熟した果実を割ると熱帯性の強く良い香りがするので、「情熱的な味と香りの果物」と思っている人もいるのではないだろうか。実際にジュースを飲んでみると、本当に情熱的になりそうな熱帯の果物という感じの味と香りがすると感じるのは私だけではないだろう。しかし、ここでいうパッションの意味は、そのような楽しく明るい感じの意味ではない。辞書のPassionの項の終りの方に「受難」、すなわち「災難に遭う」という意味も書かれている。この植物の仲間は、トケイソウ(時計草)と言うだけあって、花が開くと時計の文字盤によく似た形になる。5枚ずつの萼と花弁、細く糸のような副花冠が背後を放射状に丸くかたどっている。その中心から軸が伸び、長めの楕円形をした雄しべが5個着いている。さらに、子房(後で果実になる部分)があって、その先には3つに別れた柱頭がある。これらの姿が、十字架に貼り付けられたイエス・キリストを連想させることから「受難の花」だという。すなわち、Passiflora(トケイソウ)属植物のツルには、キリストが磔になった時の姿を連想させる受難の花が咲く。
 普通に食用にされる種類は、濃い紫色の酸っぱい果実であることが一般的だが、黄色く甘い種類もある。果実の中に詰まった、たくさんのゼリーの様な果肉に包まれた種子をかみ砕かないように一緒に飲み込んでしまうことが多い。果汁を搾ってパッションフルーツジュースなどとしても利用される。
 ツル性の植物だから、熱帯や亜熱帯の地域では畑に植えて棚や垣根に絡ませて栽培する。関東地方など、冬に霜が降りる地域では、戸外の寒さに耐えることはできないので、温室やビニールハウスで栽培できる。一般の家庭では、屋内に取り込み、居間などの凍らない場所で育てると良い。長く伸ばすと屋内へ取り込みにくいので、鉢に植えて朝顔の鉢栽培用として売られている支柱に誘引して行灯(あんどん)作りにし、暖かい間は日当たりの良い場所に置く。果実を食べた後に採りまきする。春に種子をまくと、早い場合は秋に花が着き、その年の内に果実が着く場合もある。普通は、2年目の春に伸びたツルに花が着いて果実を付ける。真夏の暑い時期には蕾が落ちてしまう。秋になって黒紫色に熟し、おいしく食べることができる。
 トケイソウの仲間には多くの種類がある。熱帯地域を旅すると、道端にクサトケイソウがよく見られる。果実が大きく、2kgほどもあるオオミトケイなどもあるし、鮮やかな色の花を咲かせる観賞用の種類も多い。しかし、一般的には冬に霜が降りる様な寒い地域では冬を越すことができず、鉢植えにして家の中に取り込む必要がある。

トケイソウの花。 観賞用でボンロンカズラとも言う。
クダモノトケイの花。 糸状の副花冠が目立つ。
熱帯、亜熱帯地域の畑で 結実した状況。
熟した果実とその内部。 種子を包んでいるゼリー状の部分を食べる。
鉢植えにして栽培した クダモノトケイ。
熱帯の道端などでよく見られる クサトケイソウ。