話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.38
南の島チョットだけ探検記 第10回 骨のある奴ら
執筆者:鈴木信夫
2009年07月22日

 南の島には行きたかったが、ハブには会いたくないので、なるべくヘビのおとなしい季節を選んで出かけている。そのために季節が違って会えない虫もいるが、ヘビに噛まれたくないので我慢、我慢。しかし、ヘビの少ないシーズンだとわかっていても、急に足元でガサガサと音がすると腰が引ける。ヤブで物音をたてる生き物は、だいたい背骨のある連中だが、石垣・西表では、ほとんどの場合、サキシマキノボリトカゲ(宮古島・八重山諸島に分布する固有亜種)だった。はじめて見るサキシマキノボリトカゲはまさに小型恐竜で、自分が「ジュラシックパーク」に迷い込んだような気分になった。さらに、この小型恐竜がヤブや林縁部に結構たくさんいることもわかった。

 ガサガサの原因、その二はサキシマカナヘビ(石垣・西表・黒島に分布)である。かつて一度だけ学会で沖縄に行ったときに、出会ったアオカナヘビ(沖縄本島・奄美大島・徳之島・久米島などに分布)が忘れられなかったが、本種はアオカナヘビの近縁種である。本州にいるニホンカナヘビは地味な色をしているが、このサキシマカナヘビもアオカナヘビも、とても美しい緑色で、細長い尾は体長の四分の三を占める。サキシマカナヘビは30cmをこす個体もいる、日本最大のカナヘビだ。
 さらに、セマルハコガメ(台湾産の亜種で、石垣・西表に分布する固有亜種)も、ガサガサとやってくれる。この天然記念物に最初に出会ったときも、みんなで大騒ぎした。腹甲の前方と後方に、蝶番のような構造があって、驚くと頭や手足、尾を甲羅の中にしまって、蓋を閉じてしまう。まさに、箱になって身を守る。簡単には見つからないと思っていたら、石垣でも見たし、西表の大富林道ではあちこちにいた。大富林道だけに限定すると、ガサガサ音の原因の半分くらいは、セマルハコガメのような気がする。コンクリートの側溝の中にもいて、自力で脱出できるか人ごとながら心配になった。音の主が誰かわからないことも、もちろんあったが、もしかしたらその中にハブがいたかもしれない。

 さて、話はヤブの中の音から離れる。はじめて石垣を訪れたある日、調査を終えて、宿に向かう車の助手席から道路脇の木をふと見上げると、枝に何かがぶら下がっていた。気になったので引き返して確認したら、ヤエヤマオオコウモリだった。南西諸島に生息するオオコウモリはいくつかの亜種に分かれており、沖縄諸島にはオリイオオコウモリが、宮古島と八重山諸島にはヤエヤマオオコウモリが分布している。イナバウアーのような格好をして、丸くてかわいい眼で木の上からこちらを見ていた。石垣・西表で出会った、唯一の野生哺乳類である。
 八重山諸島に来るようになって、2シーズンが過ぎた。毎回、新発見があって本当に貴重な経験ができた。幸いにも?調査が不十分な事もあって、2009年もヘビのおとなしい時期に訪れる予定である。機会があれば、その報告もしてみたい。ところで、一度だけ、石垣島でハブにお目にかかったことがある。郷土料理屋で唐揚げになっていた。意外においしかったが、小さな骨のある奴で、食べるのには苦労した。

サキシマキノボリトカゲ
サキシマカナヘビ
ヤエヤマオオコウモリ
セマルハコガメ