二枚貝や寄生生活をする軟体動物の歯舌は退化・消失しているが、多くの軟体動物は口腔底部に持っている。キチン質のリボン状の歯舌膜の上に小歯が規則正しく並び、これを前後に動かして、歯舌を口の外に出し、食べ物を削り取って食べる。餌が異なったり、類縁関係により、それぞれの種によって歯舌の形は異なる。横一列を見ると、中心にある対称形な中歯とその両側にある側歯、さらにその外側にある縁歯がある。外側に行くにつれ歯は段々と小さくなっていく。一列の歯の数の少ないものは進化したものと見なされている。歯舌は横一列の歯の構成によって分類されており、水生の巻き貝の大部分はこの歯の構成と系統分類の目や亜目レベルで対応している。個々の歯では先端の突起が内側に向いているが、これは食べ物を掻き取る働きがある。歯の突起の数の違いや、突起がアメフラシのようにノコギリ状になっているかなどの違いが、歯舌を持つ軟体動物の種の同定に役立っている。歯舌の英名はradulaであるが、これはラテン語の「やすり」からきた言葉である。歯舌はキチン質であり、我々の歯のような石灰質ではない。食べ物を削り取るため、歯は消耗するが、先端の歯は舌下腔で吸収されて、歯舌のうから新しい歯が補充される。水槽にコケ(ケイソウが付着)が生えていると、タニシ類がそのコケを歯舌を使って削り取って食べていくのがガラス越しに容易に観察できる。
それぞれの食性は、ヒダリマキマイマイはコンクリートについた藻や枯れ葉、サザエは海藻、アメフラシはアオサ・ワカメなどの海藻、スルメイカは小魚である。肉食であるスルメイカは、カラストンビ(口)で獲物をくわえて、このするどい頑丈な歯舌で削り取って食べてしまう。さらに吸盤には堅い丸い歯の様な突起があるものが入っており、いったん獲物を捕らえたら、滑って逃がさないように、この突起状の歯を食い込ませてしまう。タコは貝などが主食のため、吸盤はただ吸い付くだけである。