話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.75
電子顕微鏡シリーズ20 夏毛・冬毛-ニホンリス
執筆者:浅間 茂
2010年02月03日

 自然の中で動物の姿を見るのは難しい。動物は我々より先に気づいて、身を隠してしまうので足跡や食痕、糞などから動物の存在が分かる。以前校庭の泥の上に、リスの足跡とイタチの足跡を見つけた。そのリスの足跡は木のそば近くで消えていた。イタチに追われたリスはジャンプして木の幹に飛び移り、難を逃れたのだろう。リスの足跡はウサギを小さくしたようなものである。前脚が後ろにつき、後脚が前につく。リスは常に樹上にいるイメージを持つが、地上生活と樹上生活の割合は、採餌条件によって異なる。秋にはカシ林の下でドングリを求めて走り回っているのを見かける。そのドングリを厳しい冬に備えて木の間や地中に貯蔵する。そこでリスとドングリやクルミの契約が成り立つ。全てリスが食べれば種子散布にはならない。忘れたクルミを少し残してしまうことを、シートンは「リスとクルミの自然の契約」と呼んだ。クモの調査では10月に木の幹にワラを巻き、2月にそのワラをはずして、越冬しているクモを調べる。そのワラの中に、ドングリが隠されていることがある。犯人はリスか、カケスである。マツボックリの食痕がきれいにむしられていたり、クルミの食痕が合わせ目から二つに割られていたら、それはリスである。スギやヒノキを使って丸いボール型の巣をつくるので、樹皮がめくられた痕があれば、リスが巣材として利用したのだろう。
 四季がはっきりしている日本では、夏と冬では毛が生え替わる動物が多い。リスでは、夏には耳のふさげがなく、手足や腹の周辺部が赤みを帯びる。冬には全体が灰褐色になり、細かい毛が密生する。腹部は年間を通じて白い。動物には綿毛(下毛)と太くて長い剛毛がある。この夏毛と冬毛の剛毛の中間部分の表面と断面を、電子顕微鏡で比べてみたが、構造的には違いが見られなかった。表面に見られる魚の鱗のような模様はキューティクル(毛小皮)と呼ばれ、動物によって形が異なっている。また断面から、内部には空気の層があり、リスの毛は保温効果が高いことが分かる。ほ乳類の毛の断面は丸形が多いが、リスの断面の形は楕円形で凹みがある。ウサギの毛の断面はさらに扁平である。

夏毛表面
夏毛断面
冬毛表面
冬毛断面