話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.93
見えない世界を見る-紫外線・赤外線の世界2 チョウ
執筆者:浅間 茂
2010年06月16日

 紫外線を私たちを含むほ乳類は見ることができないが、他の生物は見ている。モンシロチョウについてはよく知られているが、他のチョウはどうなのだろうか。いろいろなチョウの標本を紫外線撮影した所、可視光線と紫外線で大きく異なったのは、シロチョウ科のモンシロチョウとスジグロシロチョウ、そして構造色を持つシジミチョウである。モンシロチョウとスジグロシロチョウの雄は紫外腺を吸収して黒く、雌は紫外線を反射して可視光線の模様パターンとあまり変わらない。シジミチョウの仲間は逆に雄が紫外線を多く反射する。雌雄でこのように紫外線の反射が異なるのは、チョウは紫外線を見て雌雄の認識に役立てているからである。
 ウラナミシジミは夏から秋にかけて北方に勢力を伸ばし、長距離を移動するチョウとして知られている。幼虫はマメ科の植物を食べる。北方に移動したチョウは、冬の寒さで死滅するサイクルを繰り返している。このチョウの青色は構造色で、角度によって青色が輝いて見える。この構造色を示す青色の部分が紫外線を反射する。雄がその青色部分が広いため、紫外線を多く反射する。これは他のシジミチョウでも同様である。蝶にとっては構造色の色プラス紫外線の反射で雌雄の違いがはっきりと認識できるのだろう。

 スジグロシロチョウの雄が紫外線を吸収することはあまり知られていない、モンシロチョウと同様に翅の全体が紫外線を吸収し黒くなる。モンシロチョウは翅の紫外線の反射率により、雄が雌を認識していることが分かっている。雄の翅の裏側も同様に紫外線を吸収する。菜の花畑に飛び交うモンシロチョウは、私たちにとって雌雄の見分けは難しいが、紫外線を見ているチョウにとっては大きく異なって見ている。私たちが見ることができる可視光線は400~760nmの光である。紫外線写真は赤く写っているが、使用しているデジタルカメラは紫外線の波長より、この赤色が微妙に異なる。この赤色は350~360nmの色で、より波長が長くなると、青色が入り込んでくる。波長が長くなるにしたがい赤紫色になり、400nm近くになると青紫色になる。今回はモンシロチョウをわかりやすくするため、グレースケールにしてみた。

ウラナミシジミ(雌)
ウラナミシジミ(雌・紫外線写真)
ウラナミシジミ(雄)
ウラナミシジミ(雄・紫外線写真)
スジグロシロチョウの紫外線写真(左:♂、右:♀)
モンシロチョウの紫外線写真(左:♂、右:♀)
モンシロチョウのグレースケール(左:♂、右:♀)