話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.42
幹に実が着くジャボチカバ
執筆者:鈴木邦彦
2009年08月05日

(Jaboticaba,Myrciaria cauliflora BERG)

 ブラジル南部のウルグアイに近い地域が故郷だと言われるジャボチカバ (Jaboticaba) は、日本ではまだ余り知られていない。しかし、白く香りが良い可愛い花やブドウの巨峰のような美味しい果実が幹に鈴なりに着くという珍しい植物である。霜が降りるような冬の気温が低い地方では、鉢植えにしてインテリア植物として利用することができるため、今後利用価値が高まると考えられる。

 ジャボチカバという名前は、南米のインディアンが使うツーピー (Tupo) 語で「亀の脂」という意味だということだが、その理由はわからない。亀の肉を食べたことはないが、果肉の食感が似ているのかも知れない。
 種まきや挿し木で簡単に殖やせるが、幹がある程度の太さにならなければ花芽が着かないので、実生(種まきによって殖やした苗)ではすぐには果実を楽しめない。挿し木でも太めの穂木を使用する方が早く花を着けるようになる。接ぎ木は簡単で、むしろ実生の台木に太い枝を接ぎ木する方が得策かも知れない。
 時には枝先に花が着くこともあるが、ほとんどの場合、幹や太い枝のめくら(盲)芽からつぼみを出す。1芽当たり数個の白くて4弁、中央に雌しべがあって、その周りにたくさんの雄しべが叢生する花を着ける。一斉に咲くと、幹全体に花を貼り付けたような状態になる。果実は初めは緑色だが、熟すと光沢のある黒紫色の果実を鈴なりに着ける。熟した果実の中には1~2個の種子がある。果皮はぶどうよりも強く破れにくい。果肉は半透明で甘酸っぱく、おいしい。ただ、収穫した果実は長く鮮度を保つことは難しい。生で食べるか、ジャムなどに加工すると良い。
 種子は取り蒔きをすると良く発芽する。肥料分を含まない土に種子を並べて薄く土をかける。細い芽が出てくるが、一つの種子から一本だけとは限らない。2~3本出てくるのが普通である。これは、多胚性といって、一つの種子の中に数個の胚が形成される。充実した胚からそれぞれ芽が出て一本の苗になる。一卵性の二つ子、三つ子という感じで芽が出てくるので、新しい苗木は親に似た性質を持つのが普通である。
挿し木は、6~7月頃、新しく出た枝の成長が止まり、葉が堅くなった頃に行う。枝を5節ほどの長さで切る。葉は対生(2枚ずつ対に生える)するので先の方の2節に葉を残し、根元に近い方の葉を取り除く。根元の節の下で切り返し、挿し穂にする。切り口を発根促進剤の粉にちょっと着けて土に挿す。種子を播く場合と同じ様に肥料分のない挿し木用の土が良い。最初は日陰に置いて水を切らさないようにする。根が出ると芽が伸び出すので時期を見て鉢に上げる。
 冬が暖かい地方では、ビニールハウス内であれば加温しなくても冬を越す。大きくなった樹は-1~-2℃くらいまでは寒さに耐えることができる。それよりも寒い地方では、鉢に植え、冬は家の中に入れる方が良い。日当たりの良い南向きの居間などに置けば、十分に冬を越すことができるし、5月頃になると甘い香りの花が次々と咲き、開花後40~45日ほどで濃い紫色に熟す。一年中家の中に置いても生育するので、インテリア植物として観賞しながら育てると楽しい。

ブドウに似た果実が鈴なりになる。
ハウス栽培で結実した状態。
たまには枝先に果実が着く場合もある。
花が咲いた鉢植え。
幹に白く小さい花が着く。