私は虫屋なので、石垣・西表にいる間は、ほとんど毎日、虫を探して山に登ったり林道を歩いたりしていた(3、4日連続の山登りは、きつい!)。でも、せっかく南の島に来たのだからと、海岸や河口へも少しは足をのばした。案内を頼んだ人間(大学の後輩)の趣味がスキューバダイビングなので、きれいな海岸に連れて行ってくれた。
海水浴の季節にはまだ早かったが、美しい南の海を見ていると、都会から南の島に移り住む人の心境が少しわかる気がした。虫の事が頭にないとすっかり観光客と化して、星の砂やきれいな貝殻や、サンゴのかけらを一所懸命に集めた。目的はもちろん、土産代を節約するためである。
そんな海岸にはオカヤドカリがたくさんいて、昔、夜店でよく露天商が売っていたのを思い出した。オカヤドカリといっても数種類いて、その全種が天然記念物だそうだ。ネットで調べてみたら、1970年に小笠原諸島に生息するオカヤドカリが天然記念物に指定された後に、1972年に沖縄が日本に返還されたことで、沖縄諸島や八重山諸島のオカヤドカリも天然記念物扱いになったらしい。沖縄では、昔からオカヤドカリを捕獲して販売していた業者もいたので、現在も指定業者は採集でき、それが夜店の露天商やペットショップにわたる。なんとも天然記念物とは不思議なものだ。ちなみに、我が家の飼い犬・勘九郎(柴犬)も日本犬なので天然記念物である。ところで、オカヤドカリは天然記念物だから、当然、一般人は採集禁止である。浜辺で貝殻を拾って、お土産にもち帰るのは問題ないが、中にオカヤドカリがいないか注意しよう。
西表島の仲間川や浦内川のマングローブは有名だが、石垣でも河口(汽水域)に生えるマングローブを見に行った。マングローブとは、ヒルギ科のメヒルギやオヒルギなどの総称である。マングローブの四方八方に伸びた根の上には、決まり事のようにミナミトビハゼが乗っかっていて、ゆっくり近づけば、どうにか写真を撮らせてくれた。ミナミトビハゼは木の上が好きだが、東京湾以南に生息する近縁のトビハゼは、干潟の泥の上の方が好きだそうだ。
干潟で見つけたもう一人の恥ずかしがり屋は、ヒメシオマネキだった。日本に生息するシオマネキの仲間は10種類ほどいるが、その多くが南西諸島に分布する。シオマネキの特徴は、ご存じの通り、オスの片方のハサミが極端に大きくなる事であるが、大きくなるのは個体によって右だったり左だったりするそうだ。また、眼柄も長く、それを収める溝(眼窩)が眼柄のつけ根から側方に向かって発達する。干潟の泥にたくさんの穴があいていて、その近くにヒメシオマネキがいるのだが、近づくとすぐに穴の中に逃げ込んでしまう。完全に穴の中に姿を隠してしまう事もあるが、長い眼柄だけを潜望鏡のように出して、あたりの様子をうかがっている場合も多い。こういうときは、じっくり腰を据えてシャッターチャンスをまつしかない。幸いにも、南の島の時間はゆっくりと過ぎる。
次回の話は、南の虫のイメージがぴったりの、「メタリックな連中」である。