ずいぶん昔の話になるが、大学に入学して生物学を専攻するようになったとき、自分があまり生き物の名前を知らないことに気づいた。中学・高校で生物の授業は好きだったが、放課後は、陸上部で馬や鹿のように走っていたので、当然といえば当然である。それに比べて、大学で特に仲のよくなった3人は、高校時代、バリバリの生物部員だったから、野鳥も昆虫も植物も、やたら詳しかった。私は休みのたびに、彼らの野外観察や採集について行き、少しでも生き物の名前をおぼえようとした。
とはいっても野鳥から植物まで、短期間でおぼえるのは無理なので、まずは昆虫の、それもチョウの名前をおぼえることにした。考えてみれば、これが昆虫学を専門とするきっかけだったのかもしれない。早速、保育社のカラー自然ガイド『日本の蝶�1・2』を購入し、片っ端から名前をおぼえた。チョウを選んだ深い理由はなかったが、この選択は正解だった。というのも日本産のチョウは約200種で、おぼえるには手頃な種数だった。
その後、北隆館の『原色昆虫大図鑑3』を購入した。この第3巻は蝶・甲虫を除く、その他の昆虫(いい方は悪いが、雑虫)が載っているが、さすがに種数が多かったので、全部おぼえようとは思わなかった。ただ、これらの図鑑を何度も見て、昆虫の形や色のおもしろさ、特に、南方系の虫のユニークな形や美しさに、いつもため息をついていた。そんなところに、『沖縄の昆虫』(栗林慧 著)という写真集が出たものだから、「絶対に、沖縄にいって、実物を見るんだ!」と、約30年前に決意した。
にもかかわらず、恥ずかしい話、その後に学会で一度、沖縄を訪れただけで、南の島の探検は夢で終わるかと思われた。ところが一昨年、突然、長男が南の島に行きたいと、いい出し、偶然にも長年の夢をかなえる機会が訪れた。たまたま、研究仲間が3月末に石垣島に行くと聞いて、訪れる先は沖縄本島を一気に飛びこえて、石垣・西表に決定した。
前置きが大変長くなったが、こうして、30年以上も温めてきた? 夢の沖縄探検が実現したのである。羽田から那覇空港へ飛び、石垣行きに乗り継ぐ合間に、牧志公設市場を訪れた。市場内の魚屋には、イラブチャー(ブダイ)やグルクン(タカサゴ)など、南の島の魚たちがならび、肉屋の店先ではサングラスのチラガー(顔の皮)が、てびち(豚足)を振っていた。後日訪れた竹富島では、風車をくわえたシーサーも歓迎してくれた。
このようにして、ようやく達成した八重山諸島の旅だが、実は第一の目的は研究材料の調査で(回を改め、説明する)、2007年3月、5月、2008年4月と、合計3回出かけ、そのたびに、おもしろい生き物たちに出会うことができた。この体験をいろいろな方にお話ししたいと思い、全農教に相談したところ、ホームページに掲載することを快諾していただき、今回の運びとなった。どれだけ南の島の楽しさをお伝えできるか、まったく自信はないが、とりとめもない話に、しばらくおつき合いいただきたい。
今回の話は、石垣・西表にたどり着く前に終了となってしまったが、次回はちゃんと、「南の島のチョウたち」を紹介する。