モズには不思議な習性がいくつか知られている。その一つが「ハヤニエ(早贄)」である。捕らえたカエルやイナゴなどの小動物を刺したり、小枝にひっかけたりする。万葉集では「草茎」の名で登場するなど、昔からよく知られている習性である。
さて、このハヤニエだが、野外で特に目立つのは秋である。イナゴやバッタ、カマキリ、カエル、トカゲなど、小動物を手当たり次第に捕らえてはハヤニエにする。野外調査ではハヤニエのピークは9~10月ころ。ハヤニエの季節は「秋」、というのが一般的である。
ところが、春にモズの繁殖生態を調べていたときのこと、親鳥が真っ赤な血のついた肉片を雛に与えるのを観察した。何回も同じ方角から肉片を運んでくるので、後をつけていくとクスノキの枝の茂みの中に姿を消した。そこには血だらけのスズメの幼鳥が小枝に刺さり、はやにえにされていた。モズは秋だけでなく春にもハヤニエをつくることを初めて知った。そこで秋のハヤニエを「秋ハヤニエ」、春のハヤニエを「春ハヤニエ」として区分することにした。
2008年12月20日、12月なのにハヤニエを見つけた。千葉県市川市内の雑木林で、まだ生きているツチイナゴのハヤニエを発見したのだ(写真1)。12月なので「冬ハヤニエ」である。多くのバッタ類は卵で越冬するが、ツチイナゴは成虫越冬をする。そう思って雑木林内を注意してみると足元から次々とツチイナゴが飛び出てくる(写真2)。イヌシデの幹にもとまっている(写真3)。
「小動物を手当たり次第に捕らえ、ハヤニエにする」と記したが、ツチイナゴの成虫越冬も見逃さなかったのだ。「冬の雑木林にバッタ類などいるはずがない」という先入観を、モズのハヤニエが打ち破ってくれた。モズの目からみた昆虫ウォッチングとも言える。
どんな動物がハヤニエにされるのか、季節によってどう変化するのか、モズはハヤニエを食物として利用するのか、身近な野鳥ではあるが興味は尽きないものがある。
モズのハヤニエの参照資料
(1)ハヤニエの調査法→『校庭の野鳥』(p.148-149)の「モズのハヤニエを調べる」
(2)ハヤニエの写真→『野鳥博士入門』(p.24-25)