以前私はショダマについて、ある研究会で発表した。あとでわかったことであるが、勾玉の一種にショダマというのがあるのかと思って聞きに来たと言われて恐縮した。
房総でヤブニッケイをショダマと呼んでいて、その語源について述べた。普段塩からいことをショッペイというから塩ダマではないか。もしかしたらこの木を塩を作る時に釜の薪木に利用したのではないか。あるいはこの木はよく海岸近くに生えるからではないか。塩又は潮なのかもしれないとも。
ヤブニッケイはタブノキと同様に高木層を形成する。林の中でタブノキを主役とするとヤブニッケイの方は脇役である。タブノキを房総でタマグスとも呼ぶ。このタマは玉と考えるより霊グスと考えてよいのではないか。脇役のショダマはこの霊グスの仲間と見なした呼称ではないか、と。
花は6月頃に咲き、薄黄色で小さい。これが実になると花よりずっと大きく玉のようになり、冬に黒々と熟す。これで倉田悟(1963)『日本主要樹木名方言集』に千葉県上総地方でクロショダマ、これに対してよく似たシロダモは赤熟するのでアカショダマともいう。
このことについては天保末年に著した『房総三州漫録』に出ていて、川名(2004)「深川元儁の『房総三州漫録』の動植物方言と民俗」袖ヶ浦市研究(袖ヶ浦市郷土博物館)に「シホダマ:ショダマといふ。天竺植物の種なり。二種あり。クロショダマ葉桂に同じ實皮黒し。小兒採りて売る。その仁を蝋とす。葉を細に刻み、水に浸して二日許リも置けば液出づ。髪を結ぶに用ぶるとぞ」とあり、これはヤブニッケイのことで、江戸末期にこの実が売れ、蝋にし、髪を結ぶのに用いられたようである。
「アカショダマ:葉にも毛有りて大なり。實赤し。下野にてウラジロと云ふ」これはシロダモのことであって実の赤いことを示している。
里人が同様な視点でさきの2種について、野口英昭(1955)『静岡県樹木名方言(静岡新聞社)にヤブニッケイをクロコガ、シロダモをアカコガがみえる。このコガ系はさきの倉田(1963)にコガノキが岡山、山口にみえる。また、ヤブニッケイの実の利用に乙益正隆(1998)『熊本県植物方言と民俗』(自刊)に「実を突き鉄砲の玉にする。実は小鳥が良く食べる」とあり、渡辺泰邦・中村慎吾補訂(2007)『改訂増補広島県の植物方言と民俗』(シンセイアート出版部)にも「種子は黒紫色に熟し、ヒヨドリ、ムクドリなどが好んで食べる。種子より採れる肉桂脂(にっけいし)は、低温(32-35℃)でとける性質があり、この性質を生かして、体液で溶ける座薬などに利用していた」とある。林弥栄(1969)『有用樹木図説(材木編)』(誠文堂新光社)に「種子より油を採り燈用とし、また蝋を製し、蝋燭を作る。また蝋を石鹸製造の原料とする。」とあって実が売れたわけである。