話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.3
クリの大害虫クリタマバチ
執筆者:田仲義弘
2009年02月18日

植物の一部を肥大化させ子供のための育児室とする昆虫がいて、その育児室を「虫コブ」あるいは「虫えい」と呼んでいます。全農教の『日本原色虫えい図鑑』に様々な虫コブが紹介されていますが、中でも害虫として大問題となっているのが、クリタマバチで、全滅してしまったクリ林もあるほどです。
蜂の写真を揃える中で、タマバチの代表としてクリタマバチを選びました。害虫となるくらいですから、クリタマバチの虫コブは簡単に手に入ります。内部の幼虫や蛹の写真も簡単に撮ることができました。天敵として中国から導入されたチュウゴクオナガコバチの産卵も偶然撮影できました。あとはクリタマバチの産卵だけです。前述の本には6月下旬から7月上旬に成虫が出現するとあります。その時期を狙って、3カ所ほどのフィールドで撮影を試みましたが、全て失敗して、2006、2007年は終わりました。
さて、2008年は自然状態の撮影は無理だと考え、まず6月中旬に羽化の近づいた虫コブをたくさん採集しておき、虫コブから羽化してきた蜂(クリタマバチは雌しかいないので話は簡単です)に、クリの芽を与え撮影することにしました。羽化したクリタマバチ雌と、ビニール袋を持って、目星を付けておいたクリの木にやってきました。芽は新鮮なものの方が、蜂が喜ぶと考えたからです。美味しそうなプックリとした芽が何個も付いた枝を切り取り、ビニール袋に入れると、中にクリタマバチを放し、じっと待ちます。
蜂はクリの枝に気づくと、先の方に登ってゆきます。「しめた」。芽のところにやってきます。「簡単だ」と思っていると、芽を通り過ぎ、横の葉に登って、葉柄のところで針を刺しました。何度やっても、別の蜂、別の枝を使っても同じ結果です。訳がわからなくなりました。
数日後、「クリタマバチの天敵」いう本の写真を見ていて、『????』。その産卵写真には芽の横にあるべき葉が付いていないのです。再チャレンジのつもりで採集しておいたクリの枝から葉を全て取ると、クリタマバチに与えました。
写真のように、クリタマバチはクリの芽の側面に位置して産卵管を挿入します。しかし、この写真で一番驚くのは、産卵管の出ている場所でしょう。産卵管が腹部の端ではなく、腹部下面、中央から伸びているのです。これはタマバチだけでなく、多くの寄生蜂に共通することなので(チュウゴクオナガコバチも)、次回解説します。

クリタマバチの虫コブ“クリメコブズイフシ”
クリタマバチの虫コブの断面
産卵中のクリタマバチ
産卵中のチュウゴクオナガコバチ。
腹の先に鞘、腹部の付け根付近から下に伸びているのが産卵管