私たちは掴み所のない垂直の壁を手足だけで登ることはできない。しかしヤモリやハエトリグモは簡単に上り下りできる。テントウムシをガラス瓶に入れても容易に登れるし、カやハエは天井にくっついて止まっている。どんな仕組みがあるのだろうか。
ヤモリの接着力の謎は何か。ヤモリの足の指は大きな毛が密集している横縞模様が見られる(写真1)。それを電子顕微鏡で拡大していくと、毛が先端にいくにつれ枝分かれをしている。さらにその一本一本の先端は直径200nmの丸く広がったサラ状になっている(写真2)。このサラ状の先端は一匹のヤモリで合計数億個の数になる。このヤモリの毛が物の表面にくっつく力の源は、2000年オータムのグループがネイチャー誌に発表した論文によると、ファンデルワールス力によるとされている。ファンデルワールス結合は二つの物体が2nm以内にあるときに働き、ヤモリの丸い皿状の先端は面の凹凸に対して変形し、その2nm以内の距離を広い面積を確保できるようにしている。この接着力のごく一部を使って余裕を持ってヤモリは動き回っている。毛が多ければ多いほど接着力は大きくなるので、体重と毛の数は相関関係にある。
テントウムシではどうか。ナミテントウとナナホシテントウの脚の毛を電子顕微鏡で観察した。いずれのテントウムシも2カ所に渡って毛がびっしり生えている。これらの毛が接着するようテントウムシは脚を折り曲げて動き回る。第一脚から第三脚にかけて毛の構造は生え方は若干異なるが、ナミテントウは尖った針状の毛と先端が円錐状になった毛、ナナホシテントウは尖った針状の毛と丸い皿状の毛が生えている。写真3はナナホシテントウの第三脚の脚の毛が生えている様子を示している。写真4は丸い皿状の毛である。直径5μmあり、ヤモリに比べ25倍も大きい。この丸い皿状の毛の割合は第一脚と二脚に多いが、第三脚は少ない