話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.32
南の島チョットだけ探検記 第7回 見たかった虫たち
執筆者:鈴木信夫
2009年07月01日

 30年以上前に出会った、栗林慧氏の写真集『沖縄の昆虫』は、私が昆虫に興味をもつ原点でもあった。ここだけの話、いつも石垣・西表にいく前には、この本を見てテンションを上げてから出発する。その本に登場する虫たちは、みな魅力的だったが、その中でも南の島に行ったら、どうしても見てみたかった虫が何種類かいた。

 そのひとつが日本最小のセミ、イワサキクサゼミ(沖縄本島・宮古島・八重山諸島と台湾に分布)である。なぜといわれても困るが、サトウキビに群がるイワサキクサゼミの写真が妙に心に残った。無数のイワサキクサゼミがうるさいほど鳴いていると思って石垣に行ったが、3月末の畑は植え付け前か、サトウキビもなければセミもいなかった。ようやく5月に訪れたときに、あちこちの草の上でイワサキクサゼミを見る事ができた。ヘゴ(木生シダ)の葉の上にまでいたが、やはりサトウキビに群がる姿が見たかった。

 クロカタゾウムシは写真集で見たとき、手塚漫画に出てきそうな虫だと思ったし、日本にこんな形の虫がいるのが信じられなかった。カタゾウムシの仲間は、フィリピン島嶼に広く分布するという事なので、そう感じたのも不思議ではなかったのかも知れない。石垣でクロカタゾウムシをはじめて見つけたときは、このチャンスを逃したら次にいつ再会できるかわからないと思い、何枚も写真を撮った。しかし、間もなく毎日お目にかかれる虫であることがわかった。

 学生時代、チョウの名前をおぼえようと購入した『日本の蝶』の中で、リュウキュウウラボシシジミ(沖縄本島と西表島のみに分布する固有亜種)の翅の模様が私には大変オシャレに思えた。シンプルといえばそうかもしれないが、白い翅にワンポイントの黒のドットの存在感が何ともいえない。西表の少し暗い林で見つけたが、ストロボをたかなければいけないのに、白い翅でなかなかいい写真が撮れなかった。

 さて、石垣を訪れた本当の理由は、私の専門であるシリアゲムシの仲間を探す事であった。シリアゲムシの仲間(長翅目)は、虫の中ではマイナーなグループで、日本には4科5属約50種(世界でも約500種しかいない)が生息している。東京の郊外などでも見られるのは、シリアゲムシ科シリアゲムシ属のヤマトシリアゲ(本州・四国・九州に分布)だが、八重山諸島の石垣島には、同科でミナミシリアゲ属のイシガキシリアゲが分布している。しかし、どれくらいの個体数が生息しているかはよくわかっていない。レッドデータブック見直しの手伝いで、この虫に関わったこともあり、現場に行って生息環境等を確認する必要があった。
 調査1年目は、全く見つけることができなかったが、2年目となる2008年4月に、ようやく数頭のメスを於茂登岳で確認することができた。前にも書いたが、於茂登岳は登山道も整備されていて調査しやすかったが、他の山については、調査自体がかなり難しいと思われる。とりあえず、於茂登岳での調査を繰り返して様子を見ることにした。
 シリアゲムシも変な虫だが、次回は石垣・西表の、もっと「変な虫たち」を紹介する。

イワサキクサゼミ
クロカタゾウムシ
リュウキュウウラボシシジミ
イシガキシリアゲ