話のたねのテーブル

植物や虫、動物にまつわるコラムをお届けします。
No.26
北上するアカギカメムシ
執筆者:高井幹夫
2009年06月10日

アカギカメムシは、我が国では主に南西諸島に分布する南方系のキンカメムシであるが、これまで九州や四国などで時々採集されており、2003年には東京都荒川区で採集されている。アカギカメムシの移動能力が高いことは、東シナ海上で毎年行われる気象観測船でのウンカ類の飛来調査においてたびたび採集された記録があることからも窺い知ることができる。しかし、これまでの多くは一時的な発生であったり、少数の採集であったため、いずれも偶産として片づけられてきた。ところが、1999年10月、高知県の足摺半島において南西諸島でよく見られるような大量発生が見られ、しかも限られた場所ではなく、複数箇所で大きな集団を形成しているのが観察された(写真-1)。その後毎年観察を続けているが、10年を経過した現在でも大量発生が見られ、さらに分布域も拡大していることから、既に定着していると考えるのが妥当と思われる。
足摺半島では、アカメガシワが実をつける頃になると成虫が飛来して産卵を始め、あちこちで卵保護をしている成虫を見ることができる(写真-2)。新成虫は10月から11月頃までは主にアカメガシワ上で集団を形成するが、その後寒くなりアカメガシワの葉が落ち始めると分散する。分散後の生息場所はよく分かっていないが、一度生い茂ったダンチクで越冬している雌を叩き網で採集したことがあり、またハドノキの葉上で3月まで越冬した2個体を確認している。越冬2個体を確認した年は、足摺半島でも雪が降り、かなり寒さの厳しい年であったが、3月上旬まで生存していた。また、野外で-3℃ぐらいの気温に一晩ぐらい晒されても生存できることが確認されており、それなりに耐寒性はあるようである。なお、2003年に山口県光市で、2007年には宮崎県日南市でアカギカメムシの繁殖が確認されている。山口県で発見されたアカギカメムシは、ほとんどの個体が側角に鋭い棘状の突起を有していたことが報告されているが、南西諸島で繁殖しているアカギカメムシではこのような鋭い突起を有する個体(写真-3)はきわめて少ない。足摺半島で繁殖しているアカギカメムシでもこのような突起を有する個体は少ないが、南西諸島に比べるとはるかに発生頻度は高い。鋭い突起の出現には日長が影響し、東南アジアに分布する個体は100%鋭い突起を有すると言われている。かつてボルネオで撮影したアカギカメムシの場合、側角突起は日本産のものより強く前方に突き出しているが、これは雌雄による違いかもしれない(写真-4)。
アカギカメムシの寄主植物として、アカメガシワ以外にオオバギ、ウラジロアカメガシワが知られているが、九州以北に分布するのはアカメガシワのみであり、ごく身近な樹木であるので、注意していると思わぬ場所でアカギカメムシに出会えるかもしれません。

写真1 新成虫の大集団 (1999年10月足摺半島)
写真2 抱卵 (2001年8月足摺半島)
写真3 鋭い側角を持つ石垣島産♀ (1989年10月)
写真4 鋭い側角を持つボルネオ産♂(1996年10月)